高校教師から予備校講師へ、年収は1年で倍以上に
高校の英語教師をしていたところまでが、親の敷いたレールだった。
多くの仕事をこなしている教師も、さぼって外に煙草を吸いに行く教師も、年功序列で同賃金。校門で、登校してくる女子のスカート膝下10cmを物差しで測る。バカバカしい。
男子トイレの個室上のレールを人差し指で撫でて煙草を発見する仕事。バカバカしい。
4年間ですっかり消耗して、予備校講師に転身した。
予備校では英語だけ教えていればよかった。私が教えた生徒の模擬試験の点数がぐんぐん上がる。その度に私の時給がどんどん上がる。派手な格好をする→生徒が喜ぶ→人気講師になる→また時給が上がる。
高校教師だったときの年収400万円は、予備校講師1年目で900万円になった。
これ天職だわー、ヤバすぎるわー。カリスマ講師は時給10万円らしいけど、すぐそのレベルまで行けそう!と喜んでいたら新聞に出ていた「少子化問題」。逆のヤバさが襲来した。「大学全入時代へ」。ひー!
こいつらが合格するなら、私の方が受かるわ…
予備校講師2年目、次は何の仕事につけばいいんだ……、と悩みながら新入生を迎えた。
受け持ったクラスは、「国公立医大クラス」「阪大クラス」「高三特進クラス」。
時給もかなり上がっていたので、週休3日にしてのんびり暮らすつもりだった。2年目はかなり優秀な生徒(と言っても浪人しているわけだけど)を教えられるのも楽しみだった。
1回目の「国公立医大クラス」の授業で、いくつかの英語構文を説明し始めると、やたらと静まりかえっていて、振り返ると生徒たちの瞳孔が開いていた。
え…国公立医大クラスなのに…? このレベルの問題で固まっている…?
構文のレベルを落として、ゆっくり説明し始めると、ようやく生徒はノートを取り始めた。
こいつらが医学部に受かるんだ……1年後に。
だったら私の方が受かるはず……! こいつらが合格するんだったら、私の方が確実に受かるわ……。
5月から週休3日を利用して受験勉強を始めることにした。生徒にも言った。
「私も一緒に医学部受験するから、私に負けないようにね」
社会人受験の有利な部分を活かす
10年ぶりの大学受験。私はまず国公立医大に的を絞った。文学部と同じ学費で医学部に行けるなんてコスパ最高! 6年間で数千万円必要な私立医大は選択肢には入れていない。まずはセンター試験で高得点を取ること。少人数だけ募集している、個性的な後期受験に的を絞ること。最北端から最南端まで国公立であればそれでよい。日本の大学受験に必要なのは膨大な勉強時間ではなく、精確な戦略である。
センター試験では英語、国語、社会、はほぼ勉強せずにすんだ。英語はもちろん、国語は18歳の若造よりも常識がある分、すらすら解ける。古典は趣味で短歌を作っていたので受験頻出単語を確認する程度。社会は倫理を選んだので、これも一般常識レベルで解ける。社会人受験の有利な部分である。
問題は数学と理科。これは高校卒業後10年間ですっぽり頭から抜け落ちていたので、かなり時間をかけて高校3年間分を思い出す必要があった。仕事をしながら週3日の休みを利用して勉強を始めた。宅浪というやつである。
数学と理科の参考書は、猿でも分かるマンガ混じりの簡単なものとセンター試験用の赤本、それぞれ1冊ずつ、合計4冊。これで準備は整った。