(※写真はイメージです/PIXTA)

傍から見たら無謀とも言える目標を掲げ、果敢に挑む人がいる。非凡を貫くその姿勢に、私たち凡人は羨望と戸惑いの目を向ける。予備校講師から医大受験に挑戦した朽木律子氏のここまでの人生もまた、平凡とは言い難いものだった。受験の結末と、その後の波乱に満ちた日々を語ってもらった。

【前回は…】予備校講師、医師になる。「私に負けないようにね!」生徒と挑んだ医大受験

医大受験の結果が出るまでバリに逃避行

バリ島のやさしい人々、真っ青な空、美味しい果物、美術館巡り、マッサージを受けて、心身ともに癒やされた。無謀とも思える医学部受験も「人生経験のひとつ」、まぁネタのひとつにはなるな、と、すっかり遠い過去になった。単純な人間である。

 

友人のひとりが、バリ島に嫁いでいた。「いつでもおいで」と言われていたので連絡を取った。数年にわたって「イカット」という織物を勉強しているうちにバリ島の男性と恋に落ちたという。インドネシア全体ではイスラム教徒の人口が87%、バリ島特有のバリヒンズー教徒は1.6%。ヒンズーと言うからには「カースト制」がある。

 

彼女の嫁ぎ先は、バリヒンズー教の最上カースト「僧侶階級」であった。互いに近況報告をしあった。「明日、家に来る?」と言われ「うん行く」と普通のテンションで返事をした後、彼女は言った。「通称、ジャニーズ寺よ」。

 

何ですと?

 

彼女の嫁ぎ先のお寺の男性たちは全員ジャニーズ顔をしていると言う。「行く行く! なんなら早朝から行かせていただきます!」ジャニーズが一つの寺にうじゃうじゃいると言う。行かなくてどうする。

通称「ジャニーズ寺」には木村拓哉が5人はいた…

彼女の言ったことは本当だった。木村拓哉が5人はいた。長瀬智也が8人はいた。ジャニーズジュニア達が庭を走り回っていた。ヤバい…。私はイケメンに弱い。性格よりも顔面主義である。そして何人かいる木村拓哉のひとりと目が合ってしまったのだ。瞬間、お互いに何かを同意した。恋だ。

 

日本語も英語もできないバリ島版キムタクとは、身振り手振りで会話した。彼は寺の手伝いをしながら、仏像彫刻の仕事をしているようだった。デートはその日の1回だけ川エビ釣りに行った。バイクの後部座席を指さすので乗ってみたら川に連れて行かれたのだった。二人乗りのバイクで見た背中がまた良かった。人工的に鍛えられた身体ではなくて、毎日の生活でナチュラルに美しく引き締まった筋肉。

 

翌日が帰国日であった。この美しいひとを置いて帰らねばならない。

 

すっかり忘れていたが、帰ってみると医学部に合格していた。

 

予備校講師をしていたときは、5月〜7月、9月〜翌年2月までの労働でよかった。夏期講習や春期講習での勤務は希望制なので、夏期講習の分は働かない選択もできたのである。うーむ、それだったらバリ島に長期滞在できたのに……と、医学部に入れたら入れたで文句の多い人間である。私は理系科目がまったく理解できなかったため、大学入学から2年間の一般教養での物理や化学には泣かされた。大抵が再試験、再々試験の嵐であった。夏休みに再試験があるのでバリ島に行けない。

 

じゃあ来てもらおう! 医大入試のときのような精確な作戦とは大違いである。医学部入学後最初の夏休みに私は彼を迎えに行き、日本へ連れてきた。

 

 

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