大河ドラマ『青天を衝け』で再び脚光を浴びる渋沢栄一。2024年には新1万円札の「顔」になることも決定し、注目度は増す一方だ。そこで本記事では奥野宣之氏編訳の書籍「抄訳 渋沢栄一『至誠と努力』人生と仕事、そして富についての私の考え」(実業之日本社)より一部を抜粋し、渋沢栄一が実際に記した金銭論を紹介していく。
「悪いカネは悪い結果をもたらす」渋沢栄一が説く「正しい富」とは? ※画像はイメージです/PIXTA

「政治の力だけで国家の繁栄は実現できない。個人の力が必要だ」

■「正しい富国」を

 

政治の力だけで国家の繁栄は実現できない。個人の力が必要だ。それぞれの人が、国家を自分のものと思わなければダメなのだ。

 

現代の国際情勢は、どの国も必死になって競い合っている状況だが、これを「不安な時代だ」などと思ってはいけない。何事も起きませんように、と祈っても現代では通用しない。国力を増すことが必要なのだ。

 

負けじ魂で、大いに国の富を増やしていかねばならない。困難があるからこそ、心が鍛えられ、自分の才能も発揮できると思ってほしい。

 

では、どのようにして富を増やせばいいのか。ただやみくもに「カネがあればいい」というわけではない。人間としてもっとも大切な道理に基づいたものでなければ、真正の富とは言えない。国家の力が増したとは言えないのだ。

 

■自助から互助へ

 

われわれ実業家のテーマである「富の増大」――。これは、べつに他人が貧しくなるのを望んでいるわけではない。だが「他人の利益を自分の方に持ってきたい」という欲は、自ずと「自助」の性質を強めてしまう結果につながる。

 

商品を仕入れたあとは、値上がりすることを望み、売ったあとは値下がりするのを望む。これは「自助」であって「互助」ではないことになる。

 

こういう社会情勢において、われわれがただ「自助」だけで突き進んでいけばどうなるだろう? 重要な実業の世界を穏やかで健康的に、かつみんなで仲良く発展させていくことができるだろうか。