コロナ禍が医学部受験生に与えたものは?
高校生となれば金銭面だけでなく、社会全体に対するアンテナも高くなってくる。大学を目指す高校生たちがリーマンショックに反応したのなら、コロナ禍にも何かしらのリアクションをしたのではないか? そう考えて宮辺氏に「感染リスクと背中合わせになりながらも感染者の治療にあたり、家族への感染を恐れ自宅に帰らず車の中で寝泊まりするという過酷な医師の労働環境をテレビや新聞などで改めて知ることは、医学部志願者にどのような影響を与えたのか」を聞いた。
「国立公大の志願者数は新型コロナ感染症が大きく騒がれる前の前年度とほぼ同水準でした(第1回参照)。それが物語る通り、コロナ禍による影響はなかったと考えています」という実にシンプルな答えが返ってきた(表2)。
「自分にはとてもあんな大変な仕事は務まらない」と、志望を変更した生徒の話は宮辺氏の耳には入ってこなかったし、たとえいたとしてもその数は、医学部入試のトレンドを変える程の数ではなかったということだ。
その理由を宮辺氏は、
①志願者は、医学部合格に必要な知識を蓄えるのは高校3年間だけでは厳しいことを知っていて、新型コロナウイルス感染症が広がるずっと以前からコツコツ勉強している。新型コロナの蔓延で、これまでの努力を無にするようなことは考えられない。
②2021年度の受験生が実際に患者を診るのは、10年程先のこと。よもや10年後もパンデミックが続いているとは思えず、新型コロナウイルス感染症は長い人生からみたら、ほんの一瞬のことと冷静に捉えている。
③仮に医学部進学を断念したとしても、大学卒業後には就職が待つ。どの仕事に就いても、働き続けることは容易ではないことを高校生は知っている。むしろ、医師というのは難関を突破して就く専門職だからこそ優遇される部分がある訳で、医学部志望者は自分なりに医師になるメリットとデメリットをしっかりと秤にかけ、メリットがあると判断し努力を続けている。
と受験者心理を明かす。
この話から医学部を志願する高校生が、相当な覚悟をもち入試に向き合ってきているのがわかる。
宮辺氏は、「2021年度にかかわらず、毎年『絶対に医師になるんだ』と腹を決めて勉強に打ち込んだ生徒が合格を手にしてきました。膨大な勉強量をこなすには、“医師になって人を助ける”といった固い志望動機とブレない目標達成意欲が不可欠です」と志望動機の重要さを語り、「志望理由がはっきりしない受験生は結果が出しづらい傾向があります」と断言する。
彼らの患者予備軍となる私たちにすれば、医学部受験生が “医師になって人を助ける”という固い志望動機をもっているというのは、大変頼もしい話である。
宮辺氏は新型コロナウイルス感染症が生徒たちに与える影響が全くないと言っている訳ではない。「コロナが医学部進学に何かしらの影響を及ぼすとしたら、今の中学生になるのではないでしょうか。中学生にとって、自分の経験や信念に基づいてものごとを決定するというは、馴染みあるものではありません。
このころに形作られる夢や職業観は、テレビや両親からのアドバイスといった外部情報に基づいていることが多いのです。コロナ報道で『医師は大変だ』と思った子どもたちは、ゆめゆめ医者になろうとは考えないでしょうから」と語る。