大河ドラマ『青天を衝け』で再び脚光を浴びる渋沢栄一。2024年には新1万円札の「顔」になることも決定し、注目度は増す一方だ。そこで本記事では奥野宣之氏編訳の書籍「抄訳 渋沢栄一『至誠と努力』人生と仕事、そして富についての私の考え」(実業之日本社)より一部を抜粋し、渋沢栄一が実際に記した金銭論を紹介していく。
新1万円札の顔・渋沢栄一は知っていた「堕落してしまう人の特徴」 ※画像はイメージです/PIXTA

外面を飾り、虚栄に走る…現代にも通ずる「文明発展」の弊害

■発展と共に、はびこる虚栄

 

ガスに電灯、交通手段としての鉄道や電車。こういったものはみんな文明の利器であって、国の富を増すことは間違いない。けれども、悪くすると実際にモノを作るというより、形式に走って虚栄をはびこらせかねない面もある。

 

細かい数字を挙げて証明できないのは申し訳ないけれど、どうもみんなそういう傾向にある。たとえば書画や骨董、美術品を集めている金持ちがいるとする。昔だったら、数百万円くらいするものを買う場合にはたいそう首をひねったものだ。

 

それが現代では何千万円もするものをちょっと床の間に飾って、仲間同士で見せ合い、自慢している。

 

そんなことが積み重なってある種のブームが作られる。その結果、ろくに仕事のできない人でも、似通ったマネを始める。互いに競い合って体裁ばかり整え、外面を飾ることが目的となり、そのうち虚栄に走る。こういうのは、どうも現代社会の弊害ではないだろうか。

 

■優先すべきは利益より正義

 

取引の相手が金銭欲に駆られ、こっそりと、「おれはこれだけのことをしたのだから、労に報いろよ……」というようなことを匂わせる。ひどいのになると露骨に「カネをくれ」と口に出したりする。

 

こんな場合にも、「それは正義に反する行為だから私にはできない」といってキッパリ断る。これくらいの覚悟をもって商売をしていたら、そんな話を持ちかけられることすらないものだ。というわけで、私はますます痛切に、実業家の人格を高める必要性を感じている。

 

 

渋沢 栄一

編訳:奥野 宣之