●声明では、物価上昇は一時的で雇用回復は継続、FRBの目標に向けて経済は前進との判断に。
●声明の新たな文言は、テーパリング開始のプロセスを示し、議論はすでに始まっているとのメッセージ。
●パウエル議長も議論を認めた一方、テーパリングはまだ先と示唆、今回は開始の地ならしを進めた。
声明では、物価上昇は一時的で雇用回復は継続、FRBの目標に向けて経済は前進との判断に
米連邦準備制度理事会(FRB)は、7月27日、28日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場の予想通り、ゼロ金利政策および量的緩和の維持を決定しました。今回の焦点は、7月27日付レポート『2021年7月FOMCプレビュー~今回の注目点を整理する』で解説した通り、①物価と雇用の基調判断、②量的緩和の縮小(テーパリング)に関する議論、の2つです。以下、これらについて、どのような情報が提示されたかをみていきます。
まず、①の物価と雇用の基調判断について、FOMC声明では、物価上昇は一時的との見方が維持され、雇用回復は続いているとの見解が示されました(図表1)。
なお、今回新たに、量的緩和政策の先行き指針(フォワードガイダンス)が強化された昨年12月以降、経済は雇用最大化と物価安定の目標に向けて前進しており、今後複数の会合で進捗の評価を続ける旨の文言が追加されました。
声明の新たな文言は、テーパリング開始のプロセスを示し、議論はすでに始まっているとのメッセージ
この新たな文言は、米国経済は現在、FRBの政策目標(雇用最大化と物価安定)に向けて前進していると明言しています。量的緩和政策のフォワードガイダンスは、「雇用最大化と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進を遂げるまで」量的緩和政策を続けるというものですので、「今後複数の会合で進捗を評価」した結果、「さらなる大きな前進」が確認された場合、量的緩和の縮小(テーパリング)が実施されると解釈できます。
これは、テーパリング開始のプロセスを市場に示したものとも考えられますので、FOMC内でテーパリングの議論は始まっているというメッセージと受け止められます。実際、FOMC声明が発表された直後の市場では、テーパリングを意識したと思われる反応がみられ、米10年国債利回りは上昇、ドル円はドル高・円安方向に振れ(図表2)、ダウ工業株30種平均など米主要株価指数は下落しました。
パウエル議長も議論を認めた一方、テーパリングはまだ先と示唆、今回は開始の地ならしを進めた
次に、②のテーパリングに関する議論については、前述の通り、FOMC声明で議論はすでに始まっているというメッセージが発信されたと考えますが、パウエル議長自身も記者会見で、資産購入のペースや構成をどのように調整するかを検証したと述べ、議論が行われていることを認めました。また、テーパリングについても、今は事前に周知する過程にあるとの見解を示しました。
ただ、その一方で、テーパリング開始の条件とする「さらなる大きな前進」について、数値的な基準を示すことはできず、雇用についてはまだ完全雇用には達していないとし、テーパリング開始はまだ先であることを示唆しました。これを受け、テーパリングを警戒した市場にいったん落ち着きがみられました。FRBは今回のFOMCで、市場の動揺をおさえつつ、テーパリング開始に向けた地ならしを進めることができたと考えます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年7月FOMCレビュー~テーパリング開始の地ならしが進む』を参照)。
(2021年7月29日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト