●6月のFOMC後、一部メンバーからタカ派的な発言もあり、改めて金融政策スタンスについて考える。
●常任メンバー1人と、メンバー4人のスタンスは、6月のFOMC後、タカ派方向にシフトしたとみられる。
●5人のスタンス変更は織り込み済み、来年のメンバーの顔ぶれと利上げの有無も市場の関心事に。
6月のFOMC後、一部メンバーからタカ派的な発言もあり、改めて金融政策スタンスについて考える
3月12日付レポート『2021年FOMCメンバーの金融政策スタンス』では、今年の米連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持つメンバーの金融政策スタンスを、ハト派(景気重視)、中立、タカ派(物価重視)の3つに区分しました。当時は、パウエル議長をはじめ多くのメンバーが、金融政策の正常化には慎重な姿勢を示していたため、メンバーのほとんどは、ハト派的なスタンスと推測されました(図表1)。
しかしながら、6月のFOMCで公表された、メンバーが適切と考える「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」では、2023年に2回、0.25%の利上げが示唆され、また、その後も一部メンバーからタカ派的な発言がみられました。そこで今回のレポートでは、これらの経緯を踏まえ、改めて2021年のFOMCで投票権を持つメンバーの金融政策スタンスについて考えます。
常任メンバー1人と、メンバー4人のスタンスは、6月のFOMC後、タカ派方向にシフトしたとみられる
まず、毎年投票権を持つ常任メンバーでは、パウエル議長をはじめ、ほとんどのメンバーがスタンスを変えていないと思われます(図表2)。ただ、ウォラー理事は最近、量的緩和の縮小(テーパリング)について早期実施の可能性を示唆しており、ハト派から中立にスタンスが変化したとみられます。なお、クオールズ理事兼金融規制担当副議長の任期は10月13日となっており、退任の場合は、後任のスタンスが注目されます。
次に、2021年に投票権を持つメンバーでは、リッチモンド地区連銀のバーキン総裁と、アトランタ地区連銀のボスティック総裁が、2022年の利上げの可能性を示唆しており、中立からタカ派にスタンスを変えたと推測されます。また、シカゴ地区連銀のエバンス総裁と、サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は、年内のテーパリング開始の可能性に言及しており、ハト派から中立にスタンスを移行したと思われます。
5人のスタンス変更は織り込み済み、来年のメンバーの顔ぶれと利上げの有無も市場の関心事に
つまり、2021年に投票権を持つメンバー11人のうち、5人のスタンスが、6月のFOMC以降、タカ派方向にシフトしたとみられます。ただ、2021年は、テーパリングの開始時期が市場の焦点となっており、現時点では、来年早々の開始を見込む向きが多いように思われます。そのため、5人がスタンスを変えたこと自体、市場はすでに織り込み済みと考えられます。
また、2022年の利上げの有無も市場の関心事ですが、2022年のFOMCで投票権を持つ地区連銀(クリーブランド、ボストン、セントルイス、カンザスシティ)の総裁4人は、タカ派のスタンスと推測されます。ただ、政策決定に関しては、常任メンバーの発言がより重要であり、2022年は1月31日にクラリダ副議長、2月8日にパウエル議長が、それぞれ任期を迎えるため、再任されなかった場合の後任人事も要注目です。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年FOMCメンバーの金融政策スタンス(7月改訂版)』を参照)。
(2021年7月28日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト