個人の小さな行動が歴史の大きなうねりを作り出す
サイエンスライターのマーク・ブキャナンは、その著書『歴史は「べき乗則」で動く』のなかで第一次世界大戦勃発の原因となったオーストリア皇太子の暗殺が、皇太子を乗せた自動車の運転手の道間違いによって発生している事例を取りあげて、歴史というのは大きな意思決定よりも、どこかで毎日行われているようなちょっとした行為や発言がきっかけになって大きく流れを変えるという、カオス理論で言及されるところのバタフライ効果について論じています。
バタフライ効果とは、もとは気象学者のエドワード・ローレンツが寓意的な仮説、すなわち、蝶の羽ばたきのような小さな撹乱が、遠隔地におけるハリケーンの要因となりうる可能性がある、という提言をもとにした用語です。これをそのまま社会現象に当てはめて考えてみれば、それはまさに、小さな個人個人のちょっとした行動、それはたとえば「一介の市民が差別的扱いに抗って命令を拒否する」といったようなものですが、が大きな歴史のうねりを作りだし、やがて世界のありようを変えてしまう可能性がある、ということです。
■「システムと人間との関係性のあり方」を問う
社会を変化させることを考えた時、人は二つのアプローチをとることができます。一つ目は「自分の外側にあるシステムを変える」というアプローチ、二つ目は「システムの内部にある自分を変える」というアプローチです。特に20世紀の後半以降、多くの人が「世界を変える」と叫んで、一番目のアプローチに人生を投じ、棒に振ってきました。それはたとえば、
・大学の講堂に立てこもって「大学解体、自己否定」と叫びを上げ、バヤリースの瓶に灯油を入れて警官に投げつける。
・髪を伸ばし、マリファナを吸い、ロックを聴き、郊外のフェスティバルに集まってアナーキズムを訴える。
・山奥ふかくに道場をつくり、奇妙なヘッドギアをつけ、教祖のメッセージをひたすら聴き、野菜の煮物を食らう。
・偽造パスポートをつくって渡航し、機関銃を入手し、外国の空港でそれを乱射し、資本主義の終焉を叫ぶ。
・民間航空機をハイジャックし、国交のない共産国に亡命し、世界同時革命への決起を呼びかける。
20世紀の後半、何千人、いや何万人という人が、世界を変えると叫んでこういった活動の中に身を投じていきました。では結果はどうだったか? ゼロです。なぜ、これらの活動は不毛で悲惨な結果しか残せなかったのでしょうか? 原因は「他者を変える」という発想にあります。