通夜の席に現れた見知らぬ若い女性の正体とは
通夜には大勢の弔問客が訪れました。生前の父親は地元でも評判がよく、とても愛されていたことがわかったそうです。滞りなく通夜は終わったのですが、ふと式場の入り口に目をやると、若い女性が立っていました。遅れて弔問に来られた方と思い、Aさんが中へ入るよう促すと、彼女は思いつめたような表情をしながら、ご焼香をされたそうです。
祭壇に深々と一礼したあと、Aさんに向かって「故人のご子息の方ですか?」と女性は声をかけてきました。交際の幅が広かった父親のことですから、最初はどこかの病院などでお世話になった看護師さんかと思ったそうです。ところが、その女性の口からは、その席にいた親族全員を驚かせる言葉が発せられたのでした。
なんと、通夜の場に現れた彼女は父親と数年前から愛人関係にあり、ふたりの間には認知された子どもがいると告げられたのです。学会への参加で不在にしていたのも、調査会社を使って調べてみると彼女との逢瀬で出かけた旅行だったことが半分以上。父親の急死で深い悲しみのなかにあったAさんの母親は、Aさん以上にショックを受けて寝込む始末。父親の死を惜しむ別れの場は、一瞬で凍り付いた空気と化したのです。
待っているのは修羅場と遺族の精神的な苦痛
不幸中の幸いだったのは、その方が望むのは、子どもの法定相続分以上は望まないという申し出だったことでした。結果的にはその後の病院運営などに影響が出ることもなく、穏便に話を終わらせることができました。とはいえ、家族に嘘をついて不倫関係を続けていたことを後から知っただけに、相続分が減るという金銭的な問題以上に、精神的な負担がとても大きかったとAさんは言っていました。
ちょっとした火遊びのつもりが、やがて本気になってしまった不倫関係。当人同士の問題と思われそうではありますが、男女が夜を共に過ごせば子どもができることだってあるのです。なかには、相続に関係する書類を愛人宅に保存したまま亡くなってしまい、遺産を愛人に持ち逃げされたり使い込まれたりしたことが判明した、というケースも存在しています。いくら家族を大切に思っていたとしても、結果としてこのような仕打ちが待っているであれば、それは大切にしていないのと同じこと。
それでも今回のケースは割と穏やかに済んだパターンといえるでしょう。なかには通夜の席で争いになり、台無しになってしまったという話も耳にします。浮気をした当事者はもうこの世にはいなくとも、遺族はこれからも生きていくのです。自分の家族を守るということは、旅立ったあとのことまできちんと考えておく、ということに他ならないのではないでしょうか。