渋沢栄一が考える「品性」
■幕末の若者が懐かしい?
昔の漢学生は負けん気が強くて、「衣は骭(かん)に至り袖腕(わん)に至る。腰間(ようかん)の秋水(しゅうすい)鉄をも断つべし」※という感じだった。そして、いつも汚くてボロボロな服を着ていた。
だから大声で歌いながら大通りを闊歩(かっぽ)しても世間の人は、あれこれ言わなかった。そして、ときには天ぷら屋に入ったり、人ごみの中で傍若無人に振る舞ったり、ヒドイのになると飲み食いしたカネを踏み倒したりと、実はかなりヤバい連中だった。
これに反して今の若者は、すごく従順・温和で、暴力的な言動も少ない。そのかわり、やや軟弱な面がある。ひどいときは軽薄で女にだらしないとまで叩かれるようになった。
しかし、この批判も行き過ぎると、過激なだけの人間になってしまい、逆方向の修養が必要だという話になる。じゅうぶん注意してほしい。
※ 衣は骭に至り袖腕に至る。腰間の秋水鉄をも断つべし……豪胆で向う見ず、血気盛んな様子
■精神の鍛練法
勇気の修養においては、肉体のトレーニングと同時に「心の中の修養」も忘れないようにしなければならない。
歴史の本を読み、英雄の言葉や行動に感化されて、お手本にするのもいい。また年長者に憧れて、その話を聞き、普段から自分でもやってみる習慣をつけるのもいいだろう。
一歩一歩、精神を鍛え上げ、正義について自らの考えに裏付けられた信念を持って、自ら進んで「義」のために行動するようになれば、勇気は自然と湧いてくるものだ。
ただし、くれぐれも若さゆえの血気に逸(はや)らないように注意してほしい。前か後ろかもわからないまま血気を盛んにし、勇気を間違った方向に向けて暴力的な言動をしてはならない。
品性がないと勇気というより「野卑」「狂暴」になってしまい、社会の害悪となるだけでなく最終的に自滅の道につながってしまう。
渋沢 栄一
編訳:奥野 宣之