●暗号資産は中央銀行による信用の裏付けがなく、利用者の思惑で価格が大きく変動する傾向も。
●実際、ビットコインの価格変動は大きく、中国政府は5月にマイニングなどの規制方針を打ち出した。
●暗号資産は決済手段としての利用が増えるかに注目、ただ、投機の対象となりやすい点が妨げか。
暗号資産は中央銀行による信用の裏付けがなく、利用者の思惑で価格が大きく変動する傾向も
暗号資産とは、インターネット上でやりとりできる電子的な資産であり、資金決済に関する法律(資金決済法)では、次の3つの性質を持つものと定義されています。すなわち、①不特定の者に対して代金の支払いなどに使用でき、かつ、法定通貨(日本円など)と相互に交換できる、②電子的に記録され、移転できる、③法定通貨または法定通貨建ての資産ではない、という性質です。
暗号資産に関し、③の法定通貨ではない、ということは非常に重要なポイントで、これは中央銀行による信用の裏付けがないということを意味します。したがって、暗号資産の基盤となる価値は、資産を生成する採掘(マイニング)の難しさと、その希少性のみに依存することになります。そのため、暗号資産の価格は、利用者の思惑などで大きく変動する傾向があります。
実際、ビットコインの価格変動は大きく、中国政府は5月にマイニングなどの規制方針を打ち出した
代表的な暗号資産には、ビットコインなどがありますが、実際に価格変動はかなり大きいことが分かります(図表1)。ビットコインは2020年3月、コロナ・ショックを受けて急落し、一時4,000ドルを割り込みました。しかしながら、その後は、世界的な金融緩和で流動性相場が形成されると、潤沢なマネーがビットコインに流入したとみられ価格は急騰、2021年4月には64,000ドル台に達しました。
ただ、このところ、ビットコインを取り巻く環境に、変化がみられるようになりました。まず、中国政府は5月にビットコインのマイニングなどを禁止する方針を示しました。投機的な取引の規制や、マイニング時の膨大な電力消費の抑制が背景にあると思われます。中国のマイニングシェアは6割を超えるともいわれており、マイニング業者が保有するビットコインを処分するとの懸念から、5月以降、ビットコイン相場の調整色が強まりました。
暗号資産は決済手段としての利用が増えるかに注目、ただ、投機の対象となりやすい点が妨げか
また、主要国の銀行監督当局で構成する銀行監督委員会(バーゼル委員会)は6月、銀行が保有する暗号資産について、1,250%のリスク掛け目を提案しました。つまり、銀行が暗号資産を保有する際は、相応の資本を積まなければ、最低自己資本比率8%を維持できなくなります。なお、この掛け目は、法定通貨などを価値の裏付けとして発行する「ステーブルコイン」や、中央銀行が発行する「デジタル通貨」は対象外です(図表2)。
このように、世界的に規制の動きが強まっている暗号資産ですが、この先、決済手段としての利用が増えるか否かが、取引拡大のための重要な要素と思われます。ただ、暗号資産、ステーブルコイン、デジタル通貨を比較した場合、いずれも代金の支払いに使用できる一方、信用の裏付けがないのは暗号資産だけです。そのため、暗号資産は投機の対象となりやすく、これが決済手段として利用するにあたっての妨げになることも想定されます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『暗号資産の現状と展望』を参照)。
(2021年7月14日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト