いずれ歩行困難に…「ひざの痛み」を生じる怖い病気
40歳を超えた頃から、徐々にひざの痛みを訴える人が増えてきます。ひざ痛を生じる病気はいくつかありますが、最も多いのは「変形性膝関節症」です。
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、病名が示す通り膝関節がしだいに変形し、痛みや炎症を起こす病気です。軟骨がすり減っていくことで、膝関節を構成している上下の骨の隙間がだんだん狭くなっていきます。
進行すると内側の骨がむき出しになって直接触れることから、それが刺激となって関節面の骨が硬くなる骨硬化(こつこうか)が起こったり、骨のへりに骨棘(こつきょく)というトゲのような突起ができます。これが、さらに刺激となって痛みや炎症がひどくなり、歩行困難になってきます。
「変形性膝関節症になりやすい人」とは?7つの特徴
変形性膝関節症は年齢や性別が大きく影響していますが、ほかにも生活習慣や職業、体質なども関わっていることが分かっています。主な要因として、次の7つが挙げられます。
【①加齢】
加齢によって膝関節を支えている筋力が低下することで、体重を受ける部分が不安定になり、関節の内側に負担が集中します。その結果、負担が集中している部分の軟骨の摩耗が進み、滑らかな関節の動きが阻害されるため、痛みや炎症を起こすようになります。
【②肥満】
体重が増えると、それだけひざへの負担が大きくなり関節軟骨の摩耗を進行させ、症状が悪化しやすくなります。実際に、肥満の人は体重がより多くかかるひざの内側から、軟骨がすり減ってくるケースが多く見られます。
【③50歳以上の女性】
変形性膝関節症は、圧倒的に女性に多い病気です。一般的には50代からひざ痛が出始め、年齢が高くなるにつれて発症する人の割合が増えていきます。その理由として挙げられるのは、更年期以降に女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少することです。
エストロゲンには骨や軟骨、筋肉を丈夫に保つ働きがあります。そのため、エストロゲンが減少すると骨粗鬆症になって骨折しやすくなります。関節に面している骨がスカスカになれば当然、関節軟骨も損傷しやすくなるというわけです。
また、女性は男性に比べて筋肉量が少なく、筋力も弱いので、結果として膝関節を支える力が不足しがちです。
これらの理由から、女性は膝関節を痛めやすいといえます。さらに体重が増えれば、ひざへの負担も大きくなるので注意しなければなりません。
【④O脚】
両足を揃えて立ったとき、ひざの間に手指2本分以上の隙間があるとO脚といわれ、日本人に多く見られますが、これも変形性膝関節症の原因になっています。
O脚はひざの内側に体重がより多くかかるため、関節軟骨の内側がすり減りやすくなります。これによってますますO脚がひどくなるのです。
【⑤負担の大きい仕事・生活習慣】
運送業、農作業、土木作業など重い荷物を運ぶ仕事を長期間していたり、しゃがんだりする姿勢の多い職業に従事している人は、ひざへの負荷が大きいので変形性膝関節症を発症する引き金になるリスクが高くなります。
職業だけではなく、正座をしたり、あぐらをかいたり、布団の上げ下ろし、和式トイレといった昔ながらの和式の生活習慣もO脚になる要因であり、ひざへの負担を大きくしているといわれています。
【⑥過去の外傷や病気】
激しいスポーツや転倒などによる半月板損傷や靭帯損傷などで膝関節を傷つけた場合も、変形性膝関節症の原因となります。若いときに半月板や靭帯を痛めると、そのときは治っても、中年以降にひざの病気になりやすいといわれています。
また、関節リウマチや化膿性膝関節炎(かのうせいひざかんせつえん)などの炎症疾患、骨壊死(こつえし)、神経の病気やホルモン系の病気で関節の破壊が起こった場合も変形性膝関節症になることがあります。
【⑦遺伝】
近年、変形性膝関節症と遺伝子との関係性が示唆され始め、その解明に向けて多くの研究がなされています。2010年には理化学研究所が一塩基多型(いちえんきたけい)という遺伝子の型が変形性膝関節症の発症に関係していたと報告しました。この型をもっている人は、そうでない人に比べて発症リスクが1.3倍になると結論づけています※。
※ 独立行政法人 理化学研究所「ゲノムワイド相関解析で、膝の変形性関節症の新たなSNPを同定―『免疫』が変形性関節症の解明のカギを握る?―」(2010年3月18日)
あなたのひざは大丈夫?「ひざ寿命」をチェック
中高年になってひざが痛みだすと、多くの場合で「年のせいだから仕方がない」と諦めてしまいがちです。しかし、ひざの痛みを我慢したり放っていたりすると、徐々に生活で不自由なことが生じ、ふつうの生活ができないくらいに進行してしまう恐れがあります。
せっかく趣味や旅行などでシニアライフを楽しもうと計画を立てていたのに、ひざのトラブルで家に閉じこもるようになったり、寝たきりの生活を余儀なくされたのでは人生が台無しです。このような状況にならないためにも自分のひざの状態をチェックして、トラブルを未然に防ぎましょう。
松田 芳和
まつだ整形外科クリニック 院長
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