大河ドラマ「青天を衝け」。放送開始以降、高視聴率を維持し、最近では「平岡円四郎ロス」が報じられるなど、世間の注目は高まる一方だ。本記事では奥野宣之氏編訳の書籍「抄訳 渋沢栄一『至誠と努力』人生と仕事、そして富についての私の考え」(実業之日本社)より一部を抜粋し、吉沢亮演じる主人公・渋沢栄一が実際に記した仕事論を紹介していく。
大河ドラマ「青天を衝け」主人公・渋沢栄一の「6つの教え」 ※画像はイメージです/PIXTA

「とんでもないことを!」…渋沢栄一に激怒した人物

④マルチタスクは上手くいかない

 

若い頃、二つの仕事を同時にやろうと試してみたこともあった。

 

かつて大蔵省で役人をしていたときのこと。大急ぎでやらねばならない評議書があって、必死でそれを読んでいるところに、井上さんが、鉄道事業の引き合いで本庁にやってきた。

※井上さん……元長州藩士で政治家の井上馨

 

私は急いで評議書を読みながら、井上さんの話を聞いた。

 

すると井上さんは、「冗談で言ってるんじゃない。真面目に聞いてくれないと困る!」とものすごく怒ってきた。「目と耳は別ですから」こう返したら、「とんでもないことを言うやつだ!」と言われた。こんなことがあったけれど、実際、そんなこと人間には不可能なのだ。

 

⑤小さな仕事でも手を抜くな

 

与えられた仕事に不平を言って辞めてしまう人はもちろんダメだが、「つまらん仕事だ」と軽く見て、手抜きをする人もまたダメだ。

 

だいたい、どんな小さな仕事であろうと大きな仕事の一部分となっている。これが満足にできていないと結果が狂ってくるのだ。時計の小さい針や小さな歯車が怠けて働かなかったら、大きな針が動かなくなってしまうのと同じだ。

 

何百億という単位のお金を扱う銀行であろうと、一円、一〇円の計算を間違えたら、その日の帳簿が合わなくなってしまう。

 

⑥「楽しむ」が最強

 

孔子の言葉に「これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず(ただできるだけの人は、好きでやる人にかなわない。好きでやる人は、楽しんでやる人にかなわない)」というのがある。

 

私はきっとこれが「趣味」の極致だと考える。だから、どうぞ商業でも教育でも、充分な趣味を持ってほしい。そして、いわゆる「好む以上に楽しむ」というレベルに達するまで、その事業を進めてほしいと望んでいる。

 

 

渋沢 栄一

編訳:奥野 宣之