遺言書の中身を知ったうえで隠匿し、ほかの相続人に嘘をついて、自分が有利になるよう財産の売却を進めた相続人がいました。しかしその後、遺産の整理がすまないうちに双方が死亡し、再び相続が発生。孫にあたる相続人は、自分の親が隠匿した遺言書を悪用し、さらに有利な遺産分割を画策します。「遺言書」を無視した当初の遺産分割の有効性は、どうなるのでしょうか? 長年にわたり相続案件を幅広く扱ってきた、高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

遺言書の内容を知らずに行った遺産分割協議は「無効」

今回のケースでは、「ないはずの遺言書」が出てきました。なぜなら、XさんとPさんにとって、マンションについては不利なことが書かれていましたが、「自宅はXさんに相続させる」という、Xさん(相続人であるPさん)にとって有利なことが書かれていたからです。

 

さて、今回の結論はどうなるでしょうか。

 

遺言書があるのに、遺言書の内容を知らないで行った遺産分割協議は無効となります。したがって、マンションはY子さん(相続人であるQさん)が相続することとなります。

 

Y子さんが相続するはずだったマンションは売られてしまったため、Y子さん(相続人であるQさん)は、売却代金(5000万円)の返還請求をすることができます。

 

また、Xさんは遺言書の存在を隠してY子さんと遺産分割協議をしていることから、前述した相続欠格事由があることになり、相続人とはなれず、遺言書の「自宅はXさんに相続させる」という部分は無効となります。

 

ただし、相続欠格事由は代襲相続原因となりますので、Xさんが相続できなくてもPさんが代襲相続人となります。

欲張ったため、本来の相続分まで失う羽目に…

そこで、自宅については、PさんとY子さん(相続人であるQさん)が遺産分割協議をすることとなります。

 

相続分は、2分の1ずつなので、Y子さん(相続人であるQさん)は5000万円請求できることとなります。そうなると、Y子さん(相続人であるQさん)は、合計1億円を請求できることとなります。

 

したがって、正解は、⑤となります。

 

⑤Y子さん(相続人であるQさん)は、自宅については法定相続分2分の1(5000万円)を請求でき、マンションについては全額(5000万円)請求できるので、合計1億円を請求できる。

 

実際に筆者の取り扱ったケースでは、⑤と同じ理屈で、Y子さん側に立った筆者が勝訴しました。

 

ただし一般的に、遺言書により遺産の分け方が指定されていた場合は「遺産分割方法の指定」であり、相続分は変更されないとされています。

 

したがって、Y子さんが遺言により既にマンション(5000万円)の取得を認められている場合、その分をY子さん(相続人であるQさん)の相続分である2分の1(7500万円)から差し引くこととなります。そこで、自宅はXさんが相続するという部分の遺言が無効となっても、自宅からは残りの2500万円しか取得が認められません。

 

そうであると、④も正解となります。

 

④Y子さん(相続人であるQさん)は、法定相続分である遺産の2分の1(7500万円)を請求できる。

 

④と⑤のどちらが正しいかはケースによりますが、原則は④が正しく、個別事情によっては⑤が正しい場合もあるということになると思います。

 

筆者が⑤と同様の結論で勝ったのは、通常よりも多く勝ったこととなります。

 

Xさんは、もともと遺言で自宅(1億円)を相続できるとされていたのに、欲をかいて遺産全部(1億5000万円)を独り占めしようとしたため、その相続人であるPさんはかえって自宅の2分の1(5000万円)しか取れなくなってしまったのでした。

 

 

高島 秀行

高島総合法律事務所

代表弁護士

 

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