「賃貸住宅」の空き家問題…「供給過剰」の要因は
大都市においては賃貸住宅の空き家が多く、その活用を進めていくことが必要である。管理放棄された賃貸住宅が外部不経済をもたらすという問題は、すでに現実のものとなっている。
東京都で初めて空き家の代執行が行われたのは、東京都大田区における賃貸物件であった。屋根が抜け落ちるなど危険な状応になったにもかかわらず、所有者の対応が望めなかったため、2014年5月に代執行された。
費用の500万円は所有者に請求したが支払ってもらえず、現在は土地を売却するという段階に入っている。賃貸住宅の代執行には戸建て以上に費用がかかる。
賃貸住宅のストックが過剰になりやすい背景には税制の問題がある。賃貸住宅の供給主体の大半は個人であるが、節税策として賃貸住宅を建設するインセンティブが多々あり、供給過剰をもたらす原因になっていることは、従来から指摘されてきた。
特にバブル崩壊後は大きな変化があった。
1980年代後半に地価高騰が続き、これが大きな社会問題になったことから、1991年の税制改正で土地税制が抜本的に見直され、土地の有効利用を促すため保有税(固定資産税、都市計画税)が強化された。
そのひとつが市街化区域内の農地の宅地並み課税である。宅地並み課税自体は1971年に導入されていたが、30年の営農継続を条件として特例が設けられていた(長期営農継続農地制度)。
この制度が廃止され、生産緑地(市街化区域内で保全する農地)としての指定がない限り、宅地並みに課税が強化されることとなった。相続税についても、生産緑地でない農地については相続税の納税猶予の特例が廃止された。
これによって、農家は生産緑地としての指定を受けて農業を続けるか否かの選択を迫られた。売却すれば課税は免れるが、売却を嫌う農家は保有する土地に家屋を建てた場合に税が軽減される措置を利用し、節税対策として賃貸住宅を建設する動きを活発化させた。
また、相続税についても、賃貸住宅を建てた場合、「貸家建付地」として更地よりも低く評価されるほか、賃貸住宅を建設した際の借入金は相続財産から控除されるメリットがあるため、相続対策としても賃貸住宅が建設された。
「税金対策としての賃貸経営」の罪
こうした賃貸住宅を建設した場合の保有税や相続税の節税メリットは、市街化区域内に農地を保有する農家に限らず、一般の土地保有者が賃貸住宅を建設した場合にも享受できるものである。賃貸経営を行う場合のメリットはこのほかにもあり、一般の所得と不動産所得を損益通算できることも大きい。
不動産所得は家賃収入などから必要経費(減価償却費など)を差し引くことで算出され、赤字になる場合は一般の所得と合算した所得が少なくなり、所得税、地方税が少なくなる効果を生む。
宅地並み課税については、市街化区域内の遊休農地を有効に活用するインセンティブを与える点ではあったと考えられる。しかし、賃貸住宅を建設した場合に、保有税の軽減措置があることや相続対策としても有利なこと、所得税等で損益通算のメリットがあることは、もっぱら節税面を重視して賃貸住宅の供給がなされる傾向を生んだことは否定できない。
土地保有者にとっては節税や相続対策として賃貸住宅を建設することが第一であり、そもそも市場で賃貸住宅が充足しているかどうかは二の次だったことになる。
こうした税制上のインセンティブは、住宅が足りない時代に、土地所有者に賃貸住宅を積極的に供給してもらうために設けられた経緯がある。最近では、相続税が強化されることを鑑み、賃貸住宅を建設する動きがさらに活性化した。こうした税制上の過剰なインセンティブがこのままでいいのかという議論は、いずれ必要になってくると思われる。