女性代表委員の「厠所革命」の話に、習氏の表情が曇る
両会期間中に習氏は代表委員との座談会に出席。その際、正面に座った女性代表委員が「農村のトイレは本当に小さな問題だが、国家主席がそうした小さな問題にまで我々に代わって思いを致してくれていることに、農民は大変感激している」と発言。
「厠所革命」は習氏の看板政策のひとつで、実際、発展改革委員会(発改委)が全人代に提出した2020年国民経済社会発展計画執行情況報告でも、「美しく住みやすい農村建設全力推進」の中でこの用語を使用し、農村の衛生トイレ普及率が68%を超えたとその成果を誇示している。
しかし地元経済誌はもとより政府系メディアまで、監督部門の腐敗や官僚的、形式主義的な仕事のやり方(作風)で、民生のための工事(民生工程)が悲しい工事(傷心工程)に変質し、何の成果もなく終わった(無果而終)と批判※3。1月には主導していた事務方トップの文化旅遊副大臣が規律違反で党籍はく奪・公職追放されるなど、「ケチ」が付いている。
※3 例えば、2021年1月28日付新華網が瀋陽の例を報道。
委員は習氏を持ち上げたつもりだろうが、習氏が見せた気まずい尴尬(ガンガー)表情から、触れて欲しくない話題に触れられたとの声がある(哪壺不開提哪壺。わざわざ沸かしていないポットで客に茶を提供する。「提」には話題を「提示」する意味もある)。
両会中、メディアに多用された3つの用語とその意味
ある中国外在住の中国系学者は、本年両会中に指導層、代表委員、人民日報など政府系メディアが多用した次のような用語に注目している※4。
※4 2021年3月10日付海外華字誌大紀元。
①新発展観
ここ1年政府系メディアが使い始めたが、両会で多用。党規約(党章)に盛り込まれた「中国特色社会主義」と同じ概念だが、「中国特色社会主義」はすでに1980年代から使われおり新味がなく、習氏としてはもっと独自性を持つ名称として「新発展観」を好み、自らが歴史的性格を有する思想を打ち出したとアピールしたい狙い。
②文化認同
民族や文化などについて一体感を持つこと。習氏が内蒙古自治区の代表委員との座談会で使用。すでに2020年、内蒙古の小中学校の教材に中央が編集したものを使用することを全面的に推進する方針を示したが、そうした方向がさらに強まるシグナル。
③中国式民主
党中央は長年あまり「民主」を論じてこなかったが、両会中この用語がよく聞かれた。いち早くコロナの抑え込みに成功した中国の体制は先進諸国の「民主」より優れていること、世界には様々な「民主」形態があり得ることを主張。今後、「中国式民主」が党の対外教宣用語として多用される可能性を示唆。
実際、3月の米新政権後初の外交トップによるハイレベル戦略対話で、楊潔篪中共政治局委員・中央外事工作委員会弁公室主任が報道陣に公開された会談冒頭の応酬で民主に触れた部分から、上記③が窺える※5。
該当部分は以下の通り。
「米国が現在すべきことは自らのイメージ(形象)を改めることで、他国に自らが言う民主を押し広める(推広)ことではない。米国内の現状を見て、多くの米国民は米国の民主を信頼していない」
「世界の非常に多く(絶大部分)の国は、米国の価値が国際的価値とは認めていない。人口、世界の趨勢から言っても、米国、西側諸国は国際世論を代表していない。普遍的価値(普世価値)と言う時、心の中で正しいという確信があるのか(心里踏実)」
「米国には米国式民主があり、中国には中国式民主がある」。
※5 楊潔篪氏は応酬の中で「洋人からひどい扱いを受ける(吃洋人的苦頭)のがまだ十分でないというのか」などと発言。これに関し、反中色の強い海外華字各誌は次のように報じた。「通訳に時間を与える様子がなかったこと、通常の外交用語ではない「洋人」という植民地時代の西側列強を指す用語を使用したことから、発言が国内向けだったことは明らか」「習氏の授権がなければできない発言」「他の多くの党幹部同様、表向きは反米だが、子供はみな外国のパスポートを持ち外国で暮らし、孫娘は全額奨学金で米国の大学に通っている。女性以外で彼が好きなものは中国にはない」「執務室で西側の映画を好んで見ている」「楊、王毅両氏の学位はともに怪しい」(2021年3月20日付新唐人、21日付自由財経他)。いずれも真偽は定かでない。
(次回に続く)
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