マスコミ等による「国は大幅な赤字を抱えており…」という切迫感あふれる報道に、不安を覚えたことのある人は多いのではないでしょうか。このいい回しはなんとも絶妙であり、多くの国民の認識と実際の意味する内容とには、乖離があるといえます。しばしばニュースで目にする「国の借金」「国の赤字」「日本国の赤字」「日本国の黒字」等の、微妙な表現とそれらの意味する正確な内容について、経済評論家・塚崎公義氏が平易に解説します。

経常収支黒字の分だけ、日本全体の対外純資産は増加

輸出企業は、輸出代金のドルを海外から持ち帰って銀行に売りに出します。輸出企業自身は、それを円に替えて従業員の給料を支払うわけですが、だれかがそのドルを買うことになります。ドルを買うためには円が必要ですから、買うのは原則として円を持っている日本人です。

 

輸出企業が稼いだドルを日本人投資家が買って海外に投資することで、日本全体としては対外資産が増えるわけです。実際には負債を返済する場合もあるので、正確には負債を差し引いた純資産で考えるべきですが。

 

投資家が保有する海外株式から配当を得て、それをそのまま再び海外株投資に使った場合や、日本企業が海外子会社の利益を本社に配当し、本社がそれを別の海外子会社の設立に用いた場合等々については、ドルの売買は発生しませんが、その場合でも、経常収支黒字の分だけ日本全体としての対外純資産が増加することになるわけです。

 

ちなみに、日本企業が海外の銀行から借金をして海外に工場を建てた場合には、日本の持つ対外資産である工場が増えますが、対外負債である借金も増えるので、対外純資産は増えません。対外純資産に影響するのは原則として経常収支だけなのです。

 

ときとして、「日本企業が海外に工場を建てたため、対外純資産が増えた」といった報道がなされることがありますが、それは正しくありません。

 

「海外の銀行から借金をして工場を建てた会社があり、輸出企業からドルを買って海外からの借金を返した日本人がいるため、統計だけ見ると海外に工場が建った分だけ対外純資産が増えているように見えるが、あくまでも対外純資産が増えたのは経常収支の黒字分である」

 

というのが正しいのです。

 

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