(※写真はイメージです/PIXTA)

「遺言書」は、遺言者の意思でいつでも書き換えが可能です。そのため、遺言者の都合がいいように内容をあとから変更することもできます。そこで今回は、「信託」を活用してこれを防ぐ方法を税理士が解説します。※本連載は、笹島修平氏の著書『信託を活用した新しい相続・贈与のすすめ 5訂版』(大蔵財務協会)より一部を抜粋・再編集したものです。

「遺言書」と「信託契約」の内容が異なる場合は?

Q. 以下のように遺言と信託契約の内容が相違する場合、いずれの行為が有効になるでしょうか。

①遺言書を作成した後、信託契約を締結して遺言者の財産を信託した場合
②信託契約を締結して財産を信託した後、信託により処分した財産について遺言をする場合

 

A. ご質問の①については、遺言書作成後に締結した信託契約が有効となり、遺言のうち、信託契約に内容が抵触する部分は撤回されたものとされます。

 

また、②については、原則として、信託契約により処分した財産について遺言をすることはできません。ただし、信託が以下(1)(2)に該当する場合、遺言により受益者を変更することが可能です。

 

(1)委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託

(2)委託者の死亡の時以降に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

 

なお、信託契約において受益者を変更することができない旨が定められている場合には、遺言により変更することもできません。

 

【①の設例について】

遺言は、遺言後の生前処分その他法律行為と抵触する場合、その抵触する部分については撤回されたものとみなされます(民法1023②)。したがって、遺言後に信託契約により遺言者の財産を処分(信託することにより財産の所有権を受託者に移転)した場合、遺言のうち抵触する部分(信託により処分された財産に係る内容)は撤回されたものと見なされます。

 

(前の遺言と後の遺言との抵触等)

民法1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

 

【②の設例について】

遺言できるのは遺言者が所有する財産になります。原則として、信託により処分されて受託者の所有物となった信託財産を遺言することはできません。

 

ただし、信託行為(信託契約等)に遺言者の意思表示により信託財産を処分することができる旨が定められている場合は、遺言により信託財産を処分することができるものと考えます。この場合、信託行為(信託契約等)と遺言が抵触するのではなく、信託行為(信託契約等)の定めに従い信託財産が処分されるという意味で、遺言が信託行為(信託契約等)の内容を変更するものではありません。

 

なお、委託者が死亡した時に受益者となるべき者を指定する信託、あるいは委託者が死亡した時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託については、信託行為(信託契約等)に別段の規程がない限り当該委託者(遺言者)が当該受益者を変更することが認められます(信法90①)。

 

例えば、信託行為(信託契約等)において、当該受益者が長男と指定されていたとしても、後日遺言で信託行為(信託契約等)の定め(次の受益者を長男とする定め)を変更し、次男とすることができます。

 

(注)信託行為(信託契約等)に、委託者(遺言者)が当該受益者を変更することができない旨を定めた場合、遺言により当該委託者(遺言者)が当該受益者の変更の意思表示をしても、変更することはできません。

 

(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)

第90条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託

二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託


2 前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 

笹島 修平

株式会社つむぎコンサルティング 代表取締役

 

 

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