大切な財産を子供に相続・贈与する場合、自分の思い通りに進まないのではないか?と心配する人は多いです。今回は、「信託」を使ってこの不安を解消する方法について、事例を使って解説します。※本連載は、公認会計士・税理士である笹島修平氏の著書『信託を活用した新しい相続・贈与のすすめ 5訂版』(大蔵財務協会)より一部を抜粋・再編集したものです。

「信託」を活用すると、親が引き続き財産を支配できる

以上のようなことは、従来の財産承継(事業承継)ではよく見られることです。しかし、信託を活用した承継では、これらの問題に対応することができます。

 

まず、財産を信託します。受託者は親であってもいいですし、親が管理する法人でもかまいません。そして、受益権を子供に贈与します。税務的には、財産を贈与した際の税負担と、受益権を贈与した際の税負担は変わりません。しかし、子供が取得したのは受益権です。

 

受益権とは、財産の預り証のようなものですので財産の所有権は受託者である親が持っています。贈与しても、財産の支配権は変わらず親の手の中にあります。

 

当該財産が不動産だった場合、賃貸契約を締結するのは親です。もちろん、賃貸収入を受け取るのも、収入を管理するのも親です。不動産の譲渡を決定するのも親です。子供は不動産及び賃貸収入には手を出すことができません。

 

当該財産が株式であった場合、株主総会の議決権は親の手元にあります。受益権を子供に承継してしまっても、会社の支配は引き続き親が行います。子供に株式を承継してしまった後に、親子の関係が悪くなって親が経営から追い出されることもありません。

 

万が一、子供(受贈者)が先に亡くなって、受益権が長男の配偶者に相続された場合でも、財産は受託者(親)の手の中にあります。

 

言葉は悪いですが、長男の配偶者に乗っ取られるようなことは防止できます。さらに、受益権が誰に相続されるのか指定することができます。長男が先に亡くなった場合には、長男の配偶者ではなく、例えば、次男に相続させることも可能です。

 

父親が亡くなって、母親と長男夫妻が遺された場合、以上の信託を活用している時は、長男が有するものは受益権で、受託者が信託財産を支配します。受託者が母親であるか、母親の意を汲んでくれる者(会社)であれば母親の老後の生活は安定するのではないでしょうか。

 

つまり、子供に移転するのは受益権であるということが重要な点です。財産の管理は引き続き以前と変わらず親が行うことができます。

 

このような承継は、親のエゴだと思われるかもしれませんが、子供が受益権を取得しても、財産の支配権が変わらず親の手の中にあると、子供は親に対する敬意と配慮を持ち、引き続き親を尊重します。

 

なぜなら、財産を支配しているのは親で、場合によっては受益権を取り上げられることがあるかもしれないからです。子供が親を尊重することにより、人間関係も円滑になることが多いようです。

 

筆者のクライアントにおいては、信託を活用された方で親子のトラブルになっているケースは見受けられません。

 

今までの承継(贈与・相続)では、承継のタイミングで全権が親から子供に移転します。それに対して、信託を活用した承継、つまり、受益権を承継した場合においては、受益権を子供に承継した後も信託された財産を親が管理し続けることができますし、場合によっては後戻りもできます。受益権を子供に渡した後も、親は信託財産とつながり続けます。

 

これが今までの“点の承継”と異なる、信託を活用した“線の承継”です。

 

トラブルを未然に防いで、安定的で安心な承継を行う上で、信託の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

笹島 修平

株式会社つむぎコンサルティング 代表取締役

 

 

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