信託法の改正で、相続に活用することが十分可能に
信託と聞くとどんなことを想像されるでしょう?
一般的には「投資信託」や「遺言信託」「信託銀行」といった言葉を頭に浮かべる方が多いと思います。しかし、相続や事業承継で利用される信託はこういったものとは異なるひとつの「制度」です。
実はつい最近まで、信託が相続や事業承継で活用されることはほとんどなかったのですが、平成19年9月に信託法の大改正と税制改正があり、一気に注目を浴びるようになりました。
改正により税制上も、相続や贈与、事業承継において信託を有効に活用できるようになったためです。
とはいえ、まだまだ知らない方が多数派です。本連載では信託の素晴らしさを少しでも感じていただけるよう、一部ではありますが、相続や事業承継における信託の利用法について、紹介させていただきます。
信託制度を理解するために「3人の登場人物」を知る
「信託」とはその文字の通り、「信じて託すこと」です。
ただし、誰がどういった目的でなにを託すのか、という違いによってさまざまな組織や制度があり、なかなかひとくくりに語ることはできません。
たとえば「投資信託」は、個人や企業が利益を上げてもらう目的で投資のプロに資産を託すものですし、「遺言信託」は遺言書の保管と執行を託す、いわば「公正証書遺言」と同じサービスです。
どちらも「信託」ですが、中身はまったく違います。これから私たちが説明しようと考えている信託もこれらとは異なるもので、相続や事業承継で利用できる、少し広い意味での「信託制度」になります。
信託制度の基本は、Aさんが信頼できる誰かに財産を託し、Aさん自身やAさんが指定した別の人物のために適切に管理してもらう、というものです。
さまざまな効果が期待できる魔法のような制度ですが、大まかにいうと、その効果は「財産管理」と「財産承継」に分かれます。
ヨーロッパでは中世から、米国では1880年代から、広く利用されてきました。洋画をよくご覧になる方なら、映画の中で「信託財産」という言葉を耳にされたことがあるかもしれません。
この信託制度を理解するために、まずは基本となる3人の登場人物を覚えておいてください。「委託者」「受託者」「受益者」です。
「委託者」はその名の通り、持っている財産を「委託」する人です。これに対して「受託者」はその委託を受けて財産を管理する人。最後の「受益者」は、その財産から得られる利益を受け取る人です。
こういった関係が、実際にどのような形で利用されているかイメージする場合、一般的にはその名の通り、信託銀行が財産を預かる受託者になる、と思われがちです。ところがこれは誤解で、信託銀行は「信託法」に基づく信託業務の受注はしていません。
事業として受託者の役割をつとめているのは「信託会社(信託銀行とは異なります)」と呼ばれる民間企業で、こちらは国内に16社(平成25年12月末時点)ありますので、興味のある方は、インターネットなどで調べてみるとよいでしょう。
ただ、受託者になるには、特に資格や制限はないので、委託者本人(「自己信託」と呼びます)、家族、同族会社などがこの役割を担っても問題ありません。
親族が受託者となる信託には、費用があまりかからない、というメリットがありますが、複雑なケースになると負担が大きいので、財産の管理・運営が比較的簡単なものが適しています。
なお、信託では主要な3者以外に、「指図代理人」と呼ばれる人物を設定する場合もあります。受益者に代わって、受託者に対して指示を出す役割で、通常は専門家がこの役割を請け負いますが、自己株式を信託する場合などは、オーナー社長自身が「指図代理人」となるケースも見られます。
[図表]信託制度の基本