「雨に唄えば」「巴里のアメリカ人」「踊る大紐育」、数あるヒット作を支えた俳優でダンサーのジーン・ケリー。ミュージカル映画のダンス研究を続ける医師の元来渉氏は書籍『踊る大ハリウッド』で彼の魅力を語っています。今回紹介するのは、「踊る大紐育」のもとになった「オン・ザ・タウン」。

「オン・ザ・タウンの話はNGだ」…のはずが、映画化

一九四六年十月、コムデンとグリーンが「グッド・ニューズ」('47)の脚本を書くためMGMにやって来るにあたり、エージェントや弁護士からは「オン・ザ・タウン」の脚本を書いた話は持ち出さないようにと釘を刺されていた。それほどこの話はタブーになっていたのだ。

 

しかし、四十八年一月に始まった「ブロードウェイのバークレー夫妻」の脚本作りの間にフリードのオフィスに呼ばれた彼らは、「オン・ザ・タウン」の映画化(邦題「踊る大紐育」)の話を告げられ有頂天になった。

 

「オン・ザ・タウン(踊る大紐育)」の製作が再浮上した理由は謎だが、二つの可能性が考えられている。

 

一つはブロードウェイ版の演出を担当したジョージ・アボットが、MGMから好きな作品を監督して良いと言われこの作品の名を挙げたことがきっかけになったという説。もう一つはドーア・シャーリーの存在である。

 

一九四八年七月にMGMの製作責任者になった彼は経費削減のため脚本部をくまなく調べ、長い間お蔵入りになっていた原作のいくつかを映画化することに決めた。その内の一つが「踊る大紐育」であったというものだ。

 

ただしこの説は「“ブロードウェイのバークレー夫妻”の脚本作りの間にフリードから聞かされた」というコムデン&グリーンの話とは時期的に矛盾する。同作の脚本作りは四十八年前半に行われていたからである。

 

もっとも、フリード自身は四十八年前半に映画化を考えていたものの、会社のお墨付きをもらったのは製作の実権がシャーリーに移った四十八年後半であったと考えればあり得ない話でもない。

 

四十八年十月、MGMは「踊る大紐育」の映画化を公表し、さらにひと月もたたずに、コムデンとグリーンが脚本を担当すると発表した。監督はジーンとスタンリー・ドーネン。振付けもジーン。

 

主要キャストは三人の水兵に、「私を野球につれてって」から引き続いて、ジーン、フランク・シナトラ、ジュールズ・マンシン。ジーン扮するゲイビーが追い求める「ミス地下鉄」のアイヴィー・スミスに、「ワーズ・アンド・ミュージック」で共演したヴェラ=エレン。シナトラに一目惚れするタクシー運転手ブランヒルデにベティ・ギャレット、マンシンの恋人の人類学者クレアにアン・ミラーがそれぞれ決まった。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『踊る大ハリウッド』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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