入り口に「高級品」を並べ、客の錯覚を誘う宝石店
宝石店の入り口に数百万円の高級品が展示してある場合がありますね。防犯等々を考えれば心配な面もありますが、店としてはメリットを感じるから展示しているのでしょう。
ひとつには、宝石に対する憧れの気持ちを高めて客が入店したくなるように誘っている、ということでしょうが、もうひとつは本稿の主題である「錯覚」を利用しようとしているのだと推測できます。
入り口で数百万円の宝石を見たあとで、店内で10万円の宝石を見れば、「安い! これなら自分でも買える」と思って財布の紐が緩む客が多いのでしょうね。
家具であれば、マンション売り場からスーパーを経由して家具売り場へ行けばいいのですが、宝石店の入り口と店内はつながっていますから、頭のなかにある大きな数字をリセットすることができません。そこが店の狙い目なのでしょう。
値上げしてからバーゲンしたほうが「お得な感じ」
筆者が米国留学中、ずっとバーゲンをしている店がありました。友人の話では、「値上げをしてからバーゲンをしたほうが、従来の定価で売るよりも割安な感じがするから」ということでした。
たしかに、「200円の製品をバーゲンで半額にします」と言われる方が「100円です」と言われるよりも買いたくなるのが人間というものですね。
まあ、この場合には買い手に商品価値を見極める眼力がないので、値段から商品価値を逆算している、という面もあるのでしょう。「200円の製品」と「200円の価値がある製品」は異なるものですから(笑)。
余談ですが、日本では、売主が正直に価格をつけるので、それに慣れている日本人は価格が商品の価値だと思っているわけですが、途上国へ行くとそんなことはありません。客が値切ることを前提に商品の価値よりも、はるかに高い値段をつけている場合も多いわけです。
日本人が「途上国で値引き交渉をして半額にまけさせた」などと自慢しているときに、途上国の売り手は「10倍の値札を付けておいたら日本人が半額で買ってくれた。品物の価値の5倍で売れたのだ」といって乾杯をしているかもしれませんよ。
「10個買ってください」と頼まれ、2個購入したが…
本稿の最後に、筆者自身の経験を記します。親戚の若者が訪ねて来たときのことです。「おかげさまで、大学を無事卒業して新入社員となり、現在新人研修中です。その一環として、弊社の製品を知人に買っていただくように、といわれているのですが、10個買っていただけると助かります」というのです。
買うとしても1個で十分だったのですが、10個買えといわれたので仕方なく2個買ってあげました。しかし、あとで考えたら「2個買ってくれといわれたら、1個しか買わなかっただろう」と思って悔しい思いをしました。
そうはいっても、自分が脳の錯覚で失敗したなどと思うのは嫌だったので、「1個しかいらない親戚に2個売る術を心得ているなんて、さすがに俺の親戚は優秀だ」と自分を納得させることにした、というわけです。
いまならば冒頭に記したように、「俺の脳は進化しているから錯覚したのだ」というふうに、自分を納得させたかもしれませんが(笑)。
今回は以上です。なお、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かいところについて厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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