「やればできる!」と言い張って勉強しない子に手を焼く親御さんは多いと思います。しかし、お子さんの言動の背景には、心理的葛藤がある場合が多いのです。本記事では、中学受験専門塾・伸学会代表の菊池洋匡氏が、子どもの学力アップにつながる親子のための学習メソッドを紹介します。※本記事は、『「しつけ」を科学的に分析してわかった 小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ』(実務教育出版)より抜粋・再編集したものです。

「全然勉強してないよー」に隠れる自己防衛の心理

「やればできるはずなのに、なんでちゃんとやらないの!?」

 

お子さんを見ていて、そんな風にもどかしく思ったことがある方、多いのではないでしょうか。私も同じように、生徒を見ていてもどかしくなることがあります。理由はいろいろあります。例えば、我々が「やればできる」と思っているだけで、本人は「どうせできない」と思っている。だからやる気にならない。やる気を4つに分類したARCS(「注意〔Attention〕」「当事者意識〔Relevance〕」「自信〔Confidence〕」「満足感〔Satisfaction〕」)の「Confidence:自信」を欠いている状態です。それなら成功体験を積ませることで、自信を育ててあげればいいということになります。

 

しかし、自信はある、本人もやればできると思っている、それなのにやる気になれない不思議な心のメカニズムが働く場合があります。それが、今回お話しする心のブレーキ「セルフハンディキャッピング」です。

 

●自己防衛のためのセルフハンディキャッピング

 

小さい頃から利発で、期待をかけて育ててきた。おじいちゃん、おばあちゃんや学校の先生からも「あの子は賢い子ね」と言われてきた。親としても悪い気はしない。そして、中学受験のために塾に通うことになった。最初は順調だったけれど、そのうち成績にかげりが見えてきた。すると、子どもは「勉強なんて何の役に立つの?」と言い出し、テレビやマンガ、ゲームをしてばかり。そうなったら成績はますます低下。本人も受験はしたいと思っていて、良い成績を取りたいけれども、どうにもやる気が出てこない。

 

「わが家のこと?」と思う方も多いはずです。この明らかな現実逃避が「セルフハンディキャッピング」です。もしお子さんがこの状態だったら、あるいは中高生になったときにこの状態になってしまったら、いったどのように対処すればいいのでしょうか? こうしたときに、勉強することの意義を伝えたり、将来の夢やもう少し身近な目標を考えさせたりしても、あまり効果は見込めません。現実逃避に走る理由は、「勉強が何の役に立つかわからないから」ではないのです。だって、もし役に立たないものに対してやる気がしないなら、テレビやマンガやゲームにもやる気は起きないはずですよね。

 

勉強をやってよかったという、終わったあとの満足感がないからでしょうか。私の経験上、子どもたちは問題が解けたときはとてもうれしそうな表情をするものです。もともと勉強が苦手な子であれば、そういう楽しさがないのはわかります。「やればできる」レベルの課題を与えてあげるなどの対応が必要でしょう。しかし、今回想定しているのは「やればできるのにやらない子」ですから、ちょっと話が違います。

 

こういったときに疑ってみる必要があるのが、自分のプライドを守るための防衛反応である「セルフハンディキャッピング」です。仮に成績が悪くても、「自分は勉強をしてないからこの成績なだけで、本当は頭が良いのだ」という言い訳の余地を残しておくことで、プライドを守ろうとしているのではないか、ということです。

 

 

あなたの周りにも、学生時代に定期テストの前などに「オレ、全然勉強してないよー」なんて言っている人はいませんでしたか? 恥ずかしながら、私はよく言っていました……。こういうことを言う人たちの中には、本当に勉強していない人もいれば、そう言いつつ裏ではちゃんとやっている人もいます。私は本当にやっていないほうでしたが(黒歴史です)。

 

やっかいなのは、子ども本人もこの「セルフハンディキャッピング」を自覚していない場合が多いことです。私も自分のプライドを守るために、そんなことをしていたなんて意識していませんでした。当然ながら成績はどんどん下がりますから、ちょっとやそっと勉強しても挽回(ばんかい)できなくなります。「本当にやらなきゃ! やろう!」と思っても、どうにもならなくなってしまいます。中3〜高2くらいまでの間の私は、そんな自分を守るために、ますますやる気を無意識に封印することになりました。

 

「やらなかったからできなかっただけだ」「やればできたはずだ」――そう思い込んでいた時期は、努力しなくてもプライドを保てるので、ある意味で幸せな状態でした。しかし、この「俺はまだ本気出してないだけ」をいつまでも続けて大人になったらどうなるでしょうか。もし、30代40代となって当時のままのマインドだと、幸せを保つのはちょっと辛そうですね。もし「セルフハンディキャッピング」になっている子がいたら、できるだけ早くマインドを変えてあげたいですね。

 

私の場合には大学受験が目前に迫り、高校が受験ムード一色になっていく中で、クラスメイトの仲間たちが「菊池、一緒にやろうぜ」と声をかけてくれたことがきっかけとなりました。お子さんが「セルフハンディキャッピング」になっているなと思ったら、ご家庭でも一緒に勉強する時間を作ったり、目先のご褒美を用意してやる気を引き出したり、何かしらのきっかけを用意してあげたいですね。

 

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「しつけ」を科学的に分析してわかった 小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ

「しつけ」を科学的に分析してわかった 小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ

菊池 洋匡

実務教育出版

「なんで、ちゃんと勉強しないのか!」と怒ってばかりの親御さんのための本。 何度も同じことでお子さんを叱っているとしたら、その叱責は子どもの行動改善の効果がないということ。子どもが同じ失敗を繰り返しているのと同…

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