親が子どもにかけた何気ない一言でも、学習姿勢に大きな影響を与える可能性があるため、十分な注意が必要です。本記事では、中学受験専門塾・伸学会代表の菊池洋匡氏が、子どもの学力アップにつながる親子のための学習メソッドを紹介します。※本記事は、『「しつけ」を科学的に分析してわかった 小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ』(実務教育出版)より抜粋・再編集したものです。

賢さだけをほめていると「成績を誤魔化す子」に…

以前の生徒で、とても賢い子がいました。仮にA君としておきます。彼は4年生の時点で、クラストップの成績でした。式を書かず頭の中だけで解くので、ノートは常に正解の回答と〇だけ。どう解いたのか説明してもらうと、ややこしい話し方になるものの、よくよく聞くと理解していることがわかる、そんな生徒です。

 

A君は4年生の1年間ずっとトップでした。もちろん勉強していないわけではないけれど、特段勉強をやり込んでいるわけでもない。だから、自分では頭が良いと思っていました。5年生になってライバルB君が現れました。といっても未来のライバルで、入塾当初はA君に及びませんでした。

 

しかし、B君は学習の方法・姿勢がとてもよかったのです。授業では必ず質問し、ノートには式を残す。塾で提案される学習法をすべて実践し、その上に自分なりの工夫を重ねてくる生徒でした。その結果、当然のように彼の成績は急上昇しました。

 

そして5年生の夏のテストで、2人は大一番を迎えたのです。算数・国語の両方でB君がA君に勝ちました。これでA君は動揺したのでしょう。その後の彼のリアクションは印象に残っています。「Bはまだ理科・社会で〇〇点以上を取ったことはない。自分が理科社会で〇〇点以上を取れば、4教科の合計で負けることはない…」。必死の計算をぶつぶつ呟いていました。結果は4科目ともB君の勝利。A君が「取れるはずない」と思っていた〇〇点の壁を超え、B君は自己ベストを更新しました。A君は解説授業の間、まさに「意気消沈」といった具合でした。

 

自分の能力に自信がある生徒は、「できるとき」「勝てるとき」のモチベーションはとても高いです。一方で、「できないとき」「負けたとき」のモチベーションは地に落ちます。自分では変えようがない「無能さ」を突きつけられた気分になるからです。

 

●能力や性格は“すぐには”変わらない

 

じつは、A君のドラマはここから始まります。B君と一緒に勉強する機会が増え、競い合う中でA君の勉強法が変わっていったのです。算数の授業では、生徒同士の「教え合い」を実践。説明が下手なA君は苦戦しながらも、式や図をていねいに書くことに目覚めていきます。凝り性なところがあるA君は、いったんハマるとクオリティにこだわるタイプでした。4年に比べると、6年のノートのクオリティは見違えるほどアップしました。

 

そうしているうちに、「Bと一緒に勉強するのは楽しい」「勝負だと思うと勝ったときに調子に乗って気が抜けるから、一緒に勉強するつもりでいるほうがいい」と言うようになりました。A君のマインドセットが長い時間をかけて変わったのです。その結果、もともと成績は良かったのですが、そこからもう一段伸びました。この話は、よく生徒たちにも話し、「A君のマインドが4年生の頃のままだったら、どうなっていただろう?」と想像してもらっています。

 

この話から私が子どもたちに、そしてあなたに伝えたいことは何でしょうか? それは「結果は才能ではなく努力で決まる」「能力は努力によって伸ばせる」と子どもに理解させると、行動が変わり結果も変わるということです。

 

先ほど「原因分類」を考えるときには、「性格や能力は変わらない」ものと考えようとお伝えしました。ただ、これは厳密に言えば誤りです。正確に表現するなら、「性格や能力はすぐには変わらない」です。「来週」「来月」や、「次の模試」「次の試合」までには変えられないのです。

 

 

「自分は算数が苦手だから」と能力のせいにしたり、「自分は算数が嫌いだから」と趣味嗜好(性格)のせいにしたりしていたら成果は出せません。だから、努力や方法を改善する意識を持たせるために、すぐに変えられる「努力」「方法」にフォーカスしてもらう意味で、子どもたちには「性格や能力は変わらない」と教えています。しかし、時間をかけて努力を積み重ねれば、性格も能力も変えることができます。このことは、原因分類を教えるときに、あわせて子どもたちにちゃんと教えておきたいことです。

 

●子どものマインドセットは親の声かけで決まる

 

では、そのことを小さな子どもに理解させるには、いったいどんな声かけをしていけばいいのでしょうか? そのことがよくわかる実験をご紹介しましょう。スタンフォード大学の教育心理学者キャロル・ドゥエックは、小学生の子どもたちに図形的なテストを与えて解かせました。最初の正答率は上々です。実験はこの次です。

 

子どもを三つのグループに分け、「とても賢いね(能力をほめる)」と「とてもがんばったね(努力をほめる)」「ただ点数を伝えるだけ(比較対象)」というように対応を変えました。すると、そのあとに行ったテストでは、能力をほめられたグループは成績が下がり、努力をほめられたグループは成績が上がったのです。

 

子どもたちに何が起きたのでしょうか? 能力をほめられたグループは、「能力はもともと人に備わっているものだ(能力の決定論)」という考え方になり、その上で「周囲に能力を認められたい(証明型の学習目標)」と思うようになりました。一方、努力をほめられたグループは、「能力は自分の努力で変えられるものだ(能力の成長論)」という考え方になり、その上で「自分の能力を伸ばしたい(習得型の学習目標)」と思うようになりました。

 

決定論・証明型」のマインドセットを持っている人は、目標を「成功/失敗」の明確な白黒二つで判断します。状況が好転しているときは調子よく進みますが、状況が悪くなったときや失敗したときは自分の能力に対して悲観的になってしまいます。そして、「できない」現実を直視したくないので、努力することを放棄して「俺はまだ本気出してないだけ」といった態度に逃げたりします。

 

※ドゥエックは「決定論・証明型」を「fixed mindset(固定的・硬直的マインドセット)」、「成長論・習得型」を「growth mindset(成長マインドセット)」と呼んでいますが、本書では「決定論・証明型」と「成長論・習得型」で統一します。

 

「賢いね」と能力をほめられ、「決定論・証明型」へと誘導された子は、その後は失敗したくなくなります。テストを解けなかったら、「賢くない」ということになるからです。難しくなってきたら、「飽きちゃったからやらないだけ」だと思い込もうとします。難しい問題にチャレンジしないので、実力も上がりません。難しい問題に直面し、自分の実力に自信が持てなくなると、簡単な問題の成績も下がってしまいます。

 

しかも、自分の能力を証明しなければいけないと考えているので、結果を誤魔化そうとすることが増えます。ドゥエックの実験でも、賢さをほめられたグループでは40%弱の子がウソをついて点数を実際よりも高く自己申告しました。点数を伝えられただけの比較対象グループではウソをついた子は10%強だったので、その差は顕著です。ウソをついて成績を誤魔化すことは、成績が下がること以上にイヤだと思いませんか? だとすれば、賢さをほめることは、成績が下がる以上のデメリットがあると言えますね。

 

 

「成長論・習得型」のマインドセットを持っている人は、具体的な目標達成よりも、どれだけ進歩が見られたかどうかに注目します。自己承認より自己成長を重視するので、難しい課題やネガティブな経験にも忍耐強く取り組みます。

 

「がんばったんだね」と努力をほめられ、「成長論・習得型」へと誘導された子は、失敗を恐れません。失敗しても、がんばれば認められると思うからです。問題の難易度が上がっても、「最初はわからなかったけど、よく考えたら解けるのが楽しい」と思うようになります。難問に次々と挑戦するため、実力が上がっていきます。

 

できないものをできるようにするのが学習ですから、学習に失敗はつきものです。ですから、失敗から学ぶ意識を持っている「成長論・習得型」のマインドセットを持つ子のほうが、学力向上・成績アップにつながります。普段から声かけも意識していきましょう。

 

 

注意してほしいのが、親バカなあまり「うちの子は天才だから」と言わないこと。「がんばり屋さんだから」と言いましょう。逆もよくありません。よく、我々講師に謙遜のつもりで、「バカなうちの子をよろしくおねがいします」などと言う保護者の方がいらっしゃいますが、やめてください。どうしても謙遜したければ、「まだまだ努力が足りないところもあると思いますが〜」と言いましょう(そもそも講師相手にわが子のことを謙遜する必要はありません)。天才かバカか、いずれであろうと才能に関する言及はよくないのです。

 

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「しつけ」を科学的に分析してわかった 小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ

「しつけ」を科学的に分析してわかった 小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ

菊池 洋匡

実務教育出版

「なんで、ちゃんと勉強しないのか!」と怒ってばかりの親御さんのための本。 何度も同じことでお子さんを叱っているとしたら、その叱責は子どもの行動改善の効果がないということ。子どもが同じ失敗を繰り返しているのと同…

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