新型コロナ禍によって外出自粛で“ペットブーム”だという。全国で飼われる犬・猫は2000万頭におよび、「ペットはかけがえのない家族の一員」という考え方は広く浸透している。ペットとの関りはより強くなっているという。ペットのお医者さんの獣医師はどのような人が目指しているのか。獣医師国家試験の大学別合格者ランキングをジャーナリストの伊波達也氏が解説する。

獣医医療は高度化と専門性を備えた臨床

私立大学の伝統校である日本大学(生物資源科学部獣医学科)は3位(97.5%)から5位(94.8%)、日本獣医生命科学大学(獣医学部獣医学科)は5位(96.8%)から7位(92.7%)と比較的安定している。

 

“臨床の麻布”と言われる名門校、麻布大学は8位(95.6%)から10位(92.5%)だった。

 

その他で目につくのは、酪農学園大学(獣医学群獣医学類)が16位(82.9%)から8位(92.6%)と躍進したことだ。

 

獣医学部は、幼少時から動物に対する思い入れが強く、“動物のお医者さん”を目指していたモチベーションの高い受験生が多いことで知られる。

 

ところが、獣医学課程を持つ大学は専門大学を含め、全国で16校しかないため狭き門と言われる(17校目の岡山理科大学[加計学園]獣医学部設立されている)。

 

その狭き門を潜り抜け、勉学に励み、晴れて獣医師国家試験に合格した人たちの多くが獣医師として活躍するのだろうか。実際はそうとも言えないようだ。“動物のお医者さん”として、臨床活動に入る人は約4割だという。

 

その他の人たちは、大学の附属病院勤務や研究関連職についたり、動物園や競走馬のいる現場で職務につく獣医師になったり、その他の家畜産業に携わったりする。

 

動物輸出入の検疫、伝染病の予防、食肉鶏卵乳製品などの食の安全、人と家畜の共通感染症の予防などの現場で公務員として働くケースもある。

 

現在流行中の新型コロナウイルス感染症は、ヒトから動物へ感染はほんのわずかな事例だというし、動物からヒトへの感染についてはないといわれる。しかしながら、動物由来感染症は多岐にわたり、将来のパンデミックに備えても、検疫と感染症予防に携わる人材の確保は重要になるだろう。ところがこの分野では人手不足が深刻だとも報じられ、今後の対策は急務かもしれない。

 

獣医医療は、臨床現場においても、近年、高度化と専門性を備えた「ほぼ人間並み」の臨床がおこなわれている。

 

ゼネラリストといわれるかかりつけ医は、目、皮膚、耳、歯、肺、心臓、脳・神経系、消化器、肝胆膵、腎、生殖器、内分泌、骨・関節、心の病、がん、感染症と人間を診る小児科医のように全身を横断的に診るあらゆる知識と経験が必要だ。飼い主に対し、日頃のペットに対するコンサルをおこなうことも重要視される。

 

一方では、スペシャリストといわれる獣医師が、専門分野に特化した知識や技術を身につけ、 医療の高度化も進んでいる。

 

他には、超高齢化社会における介護の現場やメンタルに支障をきたした人のためのケアなどの仕事も大切だ。将来、医療や介護職などと連携して、重要な役割を果たす可能性は大だ。

 

このように職種が多岐にわたり、動物へ愛情を注ぐべき仕事である獣医師は、やりがいはあるものの、さまざまな苦労が伴うことも確かだ。

 

“動物とともに生きる”という覚悟を持った獣医師、獣医関連産業に携わる逸材を多く輩出してくれることを願う。

 

伊波達也
編集者・ライター

 

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