日本の不動産市場で取引されている住宅の中には「借地権付き不動産」といって、地代を払って借りている土地に建つ家(マンション)もあります。値ごろ感から人気もありますが、その多くが「一般定期借地権」といって更新が不可であり、契約終了後は建物を解体・返還しなければならないとう厳しい条件が付いています。低価格のタワマンはこの権利形態のものが多く、将来、返還を求められるリスクがあるのです。

平成4年から施行された「新法借地権」とは?

 

不動産広告では「旧法借地権」という記載もよく見られます。これは前述の「大正や昭和から続く土地の賃貸借契約」のことで、大正10年から平成4年まで続いていた借地借家法上の取り決めです。旧法の契約期間は30年前後のものがほとんどで、更新時に地主が賃料の値上げを求めた際に賃借人が合意しなくても、従前条件のまま「法定更新」されてしまいます。30年前と比較すれば経済状況や物価指数も変わっており、固都税額も大幅に値上がりしているはずですから、賃料据え置きでさらに30年更新するのは地主にとって大きな損害となります。

 

高額な固都税を支払いながら安い地代で土地を貸し続けていては、賃貸経営が成り立ちません。そこで「時代遅れの旧法は見直しの必要がある」との声が上がり、平成4年から「新法借地権」が施行されました。

 

旧法と新法の大きな違いは、旧法が土地賃借人を擁護しているのに対し、新法では土地所有者に寄り添っている点です。

 

新法では契約期間50年以上の「一般定期借地権」と、30年以上の「建物譲渡特約付借地権」、10年以上50年未満の「事業用借地権」の三種類が設定されました。

 

もっとも賃借人に厳しいのは、更新がなく、契約終了時は賃借人費用で建物を解体し更地にして地主に返還しなくてはならない一般定期借地権です。これは、旧法下で地主が頭を悩ませていた「貸したら一生返してもらえない」状況を回避するために作られた権利です。

 

一般定期借地権は都心の新築分譲タワーマンションでも多く採用されており、借地権の割安感から若いファミリー層を中心に購入者が増えているようですが、購入者のなかに老後の自宅解体リスクを把握している人がどのくらいいるのかは不明です。

 

海外では「所有権」より「使用権」とするほうが多い

 

不動産の権利について、日本では「土地と建物とは別々」という考え方ですが、諸外国では「土地と建物で一体」と考えられることが多いようです。そして、土地の権利についても「所有権」ではなく、建物を建てるために土地を使用する権利、すなわち「土地使用権」のみが許されています。

 

例えば、アメリカの土地使用権には以下の4種類があります。

 

●Tenancy by the severalty
建物の所有者1人が土地を使用できる権利。権利者が死亡した場合は、土地使用権は親族などに相続される。

●Tenancy in common
複数の建物所有者が出資割合で土地使用権を共有。共有者の1人が権利を無くした(死亡など)場合は、土地使用権はその親族などに相続される。

●Joint tenancy
複数の建物所有者全員が同じ割合で土地使用権を共有。共有者の1人が権利を無くした(死亡など)場合は、土地使用権は自動的に共有者全員に同じ割合で引き継がれる。

●Tenancy by the entirety
夫婦で土地使用権を共有。夫婦のうちいずれかが権利を無くした(死亡など)場合は、残った1人(夫または妻)に土地使用権が自動的に引き継がれ、その際の相続税などは発生しない。

 

アメリカ同様、イギリスの土地権利も所有権ではなく「使用権」です。イギリスの土地使用権は以下の2種類です。

 

●Freehold
一族が消滅するまで半永久的に土地を使用できる権利。この権利を得ている人はfreeholder(フリーホールダー)と呼ばれる。日本でいう地主のような立場。

●Leasehold
フリーホールダーから土地を借りて使用する権利。フリーホールダーとLeasehold契約希望者とが定期賃借契約を結ぶもので、その契約期間は99年間が一般的だが、最長で999年間まで設定可能。

 

このように、諸外国では土地の所有権は国家にあり、国民はそれを借りて住まいを建てるというスタイルが多いようです。そして、日本における土地所有権もなかなか不明瞭であり、自らの所有であるにもかかわらず、地方自治体から土地の固都税をきっちり徴収されています。固都税も地代と同じようなものと考えれば、日本の土地も実は使用権、または借地権のようなものなのかもしれません。

借地権不動産の購入、するか否かは「固都税額次第」

 

さて、借地権不動産の購入は避けるべきか否かについての結論ですが、旧法借地権の不動産で、その土地の固都税額より地代が安い場合は購入してもいいでしょう。逆に固都税と同等、または高額であれば購入は見送るべきかも知れません。加えて新法借地権付き不動産、とくにタワーマンションは契約終了時の解体費用が高額になることが予想されますので、十分な検討が必要です。
 

 

 

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※本記事は、「ライフプランnavi」に掲載されたコラムを転載・再編集したものです。

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