コロナウイルスにより、延長期間の判断はかなり柔軟に
●「やむを得ない理由」がなくなったかどうかは主観でOK
相続税の申告・納付期限は、相続開始があったことを知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10カ月以内に行うことと定められています。
しかし、当事者にはどうしようもない事情で間に合わないケースも考えられます。そのため、国税通則法では、「災害その他やむを得ない理由」がある場合には、申請することにより最大2カ月間、期限の延長が認められるとしています。
ただ、これまで延長が認められるケースは、相続人の移動、遺留分の侵害請求、遺贈に係る遺言書の発見など、かなり限られていました。
それに対し、今回の新型コロナウイルスでは、「やむを得ない理由」を広く認め、かなり柔軟に申告・納付期限の延長措置がとられています。
国税庁の「相続税の申告・納付期限に係る個別指定による期限延長手続に関するFAQ」によると、下記のようなケースが挙げられています。
★新型コロナウイルス感染症に感染した
★体調不良により外出を控えている
★平日の在宅勤務を要請している自治体に住んでいる
★感染拡大により外出を控えている
延長手続きは事前の申請は必要なく、相続税の申告書を書面で提出する場合、右上の余白部分に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記入すればOKです。税務署にはスタンプも用意されています。
また、延長期間は「やむを得ない理由」がなくなった日から2カ月以内とされており、これは客観的な基準によるものではなく、主観的な判断でよいとされています。実質上、2カ月以内という期限にかかわらず、申告書を作成・提出できるようになった時点で申告をすればよいのです。
●申告期限が要件となる特例には注意が必要
ただし、申告書の提出日=相続税の納付期限であることには注意が必要です。納税が申告書の提出日より遅れると、延滞税がかかる場合もあります。つまり、申告書の提出日までに納税資金を準備しておかなければなりません。
申告期限が要件となる特例を利用する場合も注意が必要です。例えば、「小規模宅地等の特例」が適用される要件に、「被相続人と同居していた親族」というものがあります。
ここでいう「親族」は、相続開始前から相続税の申告期限まで被相続人の自宅などに住み、宅地などを相続税の申告期限まで保有していなければなりません。延長措置を利用すると、相続税の申告を終えるまで被相続人の自宅などに住み続け、保有し続ける必要があります。相続開始から10カ月経った時点で被相続人の自宅などを売却してしまうと、特例が受けられなくなる恐れがあります。
感染リスクを抑えながら相続税の申告作業を進めることにも注意が必要です。相続税の申告には戸籍謄本などの書類の収集が必要になりますが、役所の窓口まで出向かなくても郵送で取り寄せることもできます。
遺産分割協議書は相続人全員が一堂に会して作成、署名・押印するというイメージがあるかもしれませんが、メールや電話、オンライン会議などで内容を詰めたうえで書面を作成し、署名・押印は郵送で順繰りに行えば集まらずに済みます。
被相続人の財産の把握に時間がかかりそうなら「熟慮期間」の延長申請をするとよいでしょう。相続には、「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3種類があり[Q2.18頁参照]、相続放棄や限定承認は相続開始があったことを知った日から3カ月以内に行うことが必要です。この3カ月間のことを「熟慮期間」といいます。
新型コロナウイルスにより、熟慮期間中に財産の内容を把握しきれないことも考えられ、そのときは相続開始後3カ月以内に、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。延長期間は通常は3カ月程度ですが、今回の新型コロナウイルスではより長く認められる可能性もあります。
もう一つ、コロナを理由に延長が認められるのが「準確定申告」です。準確定申告とは、年の途中で亡くなった人(被相続人)の確定申告のことで、相続人が行います。被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡した日までに確定した所得金額と税額を計算し、相続開始があったことを知った日から4カ月以内に申告と納税をするものです。
しかし、新型コロナウイルスの影響がある場合には申告・納付期限が延長できます。手続きは相続税の申告・納付期限の延長と同様で、申告・納付できるようになった時点で申告書を作成し、申告書の右上の余白部分に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」という文言を記入すればよいとされます。
新型コロナウイルスによる申告・納付期限の延長はいつまでも続くものではなく、国税庁が「災害が止んだ」と認められる日までの措置なので、新型コロナウイルスの流行が収束する際には注意を。
税理士法人チェスター
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