英国ロンドンに本拠を置き、グローバルな債券投資に特化したファンドマネジメント、アドバイザリー会社であるStratton Street Capital。独自の債券投資モデルで高い運用パフォーマンスを誇る。同社のCIOで債券運用戦略の最高責任者を務めるアンディ・シーマン氏、セールス&ビジネスデベロップメントヘッドを務めるベンジャミン・デイ・カイア氏にインタビューを行った。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)のシニア・マネージャー幾田朋彦氏である。今回は、対外純資産残高と債券市場との相関性などがテーマとなる。

債権国と債務国の関係性から浮かび上がる事実とは・・・

幾田 前回こちらを参照御社の運用哲学についてお聞きしました。対外純資産残高を指標として、債権国か債務国か見分けるということですが、そもそもどうしてその様な手法をとることにしたのですか?

 

 

アンディ 1995年に遡りますが、当時、為替運用のスペシャリストとして、通貨の価格変動を分析するモデルを構築しようとしていました。研究を進めるうちに、長期にわたる通貨価値の分析には対外純資産残高に着目することが非常に有効であるという理論に行き着き、実際に関連した研究結果が学会で発表されていました。

 

対外純資産残高とは経常収支の累積であり、その国の将来を示唆する成長率ではなく、長期にわたる価値評価を目的として調整された数値で、その国の通貨価値の推移を見極めるのに有効なのです。その後、私は通貨価値のみならず債券の利回り分析にもこの手法が非常に有効であることに気づきました。

 

1994年の債券市場のパフォーマンスを見ると、最上位が日本、最下位がニュージーランドとでしたが、対外純資産残高のランキングも同様でした。1993年は反対に最下位が日本、最上位がニュージーランドでしたが、同様の相関が見られました。これらの例に従ってみると、対外純資産残高と通貨リターンは85%の相関性がありました。

 

しかしながら、こういった点に着目した研究成果は見当たりませんでした。

 

そこで、私はさらに検証を進めました。日本を債権国、ニュージーランドを債務国とし、両国が同様の成長率、インフレ率、負債率だと仮定しました。もしニュージーランドが日本に借り入れを行った場合、どのような資金フローが起こるでしょう?ニュージーランドでの金利は上昇し、貸手にとってのリスクは増すので、債務が増えれば増えるほど、金利は上昇するでしょう。

 

先ほど示した仮定通りの資金の流れがあったとすると、債券市場のパフォーマンスでは、利回りの上昇したニュージーランドが上位となり、日本が下位となります。これはマーケット全般の調子が良い場合で、債務国の債券のパフォーマンスが債権国を上回ります。反対に、信用不安等でレバレッジ解消のサイクルに入ると反対に債権国の債券パフォーマンスが債務国の債券パフォーマンスを上回ることになります。

対外純資産残高と債券市場の動きには「相関性」がある

幾田 その理論は実際の市場の動きと照らし合わせて立証されたのでしょうか?

 

アンディ 1993年、1994年だけでなく、1998年、2002年、2008年といった金融市場混乱時においてもこの理論通りとなり、その後も今日まで同じ結果が出ています。ですから、私は債券市場と対外純資産残高には高い相関があると強く信じています。対外純資産残高で国をランク付けしてみると、スイスが最も対外純資産残高が多く、最も高いリターンとなっています。

 

ギリシャが最も低いリターンで、やはり対外純資産残高のランキングと同じ結果となります。そして例外なく、同様の状況下で全ての債権国は債務国を上回る結果となりました。さらに、対外純資産残高の位置付けと信用格付けを見ると、非常に興味深い点を見つけました。ギリシャ危機の直後、AAA格の債権国はAAAを保ちました。

 

 

しかし、イギリスとフランスは、対外純資産残高がGDPの10%にまで悪化したため、両国は格下げをされてしまいました。イタリア、スペインとポルトガルもさらに格付けが大きく下がりました。興味深いのは、デフォルトの直前までムーディーズはギリシャをA格付けとしていたことです。ギリシャの信用度を借り換えコストをベースに判断し、債務の量的な面を考慮していなかったからです。その後、ムーディーズも手法を変え、今では対外純資産残高の変化を主要な格付け変更のトリガーとし、各国の債務状況を分析するようになりました。

 

幾田 なるほど。対外純資産残高と債券市場の動きに高い相関性があることが実際の市場において立証されていますね。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、Stratton Street Capital およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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