従業員の解雇を条件にするケースはほとんどない
松下電器(現パナソニック)を創業した松下幸之助氏は、「企業は社会の公器」であるとし、従業員を家族のように愛してその雇用を守ることを大切にしていました。
事業承継を検討するオーナー社長にしてみても、残される従業員を大切に思う気持ちは同様ではないでしょうか。後継者不在や自身の年齢・健康状態などを理由にM&Aを考えるオーナー社長にとっても、長年苦楽を共にしてきた社員たちは家族も同然です。
M&Aによって大切に思っている従業員が解雇されるのでは、と不安を感じるオーナー社長もいますが、過度の心配は不要です。というのも、昨今のM&Aでは、買い手が従業員の解雇を条件にするといったケースはほとんどないからです。
さらに、先に述べたようにM&Aの交渉段階で、従業員の雇用を当面の間維持するといった条件を設けることで、雇用を守ることもできます。
M&Aを契機に、飛躍する従業員も現れる!?
むしろ、買い手の信用力やブランド力が付加されることで、活躍の場を広げる従業員も多いことを知っておくべきです。
例えば、M&Aの結果として、事業領域やエリアが拡大し、新たな活躍の場や才能を見出されるケースがあります。また、年功序列的な慣習が外れることで若手が活躍できるチャンスが広がることもあります。なかには、買い手から才能を高く評価され、他部署や親会社にスカウトされ転籍していく社員もいるのです。
このように、従業員の雇用確保という観点からも、M&Aは事業承継の優れた選択肢だということがわかります。そのことは、廃業・清算と比較しても一目瞭然です。清算すれば、事業が存続しないため、すべての従業員が職を失います。
一方で、M&Aなら事業も雇用も取引も継続できます。さらに、福利厚生制度などが今までよりも充実するといったこともあります。
長年、会社に貢献してくれた従業員に報いるためにも、社長であれば清算は最後の手段と考えておくべきです。そのためにも、今からM&Aの準備を進めるべきなのです。
【図表 M&Aを躊躇してしまうオーナーの心境】