中華人民共和国国家発展改革委員会(発改委)は2018年末、第13次5ヵ年規画実施中期評価を発表している。発改委が中心となり、実地調査、アンケート調査、座談会などを通じて状況を調査したのである。その中で一部計画の進捗が遅れていると公表。必ずしも見通しは甘くないとの評価だったが、現在その遅れがどういった影響を及ぼしているのだろうか。新型コロナウイルスの影響なども加味しつつ考察する。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

習氏の国連演説「CO2排出量削減」目標に世界が注目

生態環境部の2021年2月記者会見によると、第13次規画の大気汚染改善に関する約束性指標目標(大気質が良好な日数の割合、PM2.5濃度など)は全て達成された。GDP単位当たりCO2排出量の削減については、2020年10月記者会見で、期間中に2015年比18%削減する目標に対し、18.2%削減を達成したと発表。

 

この関連で、習氏が昨年9月に国連演説で「排出絶対量を2030年までにピークアウトさせ、2060年までに碳(タン)中和(排出量と吸収量を同じにして、ネット排出をゼロする)を実現する」との長期目標を表明し、世界が注目した。中国は世界最大のCO2排出国(EU推計では2019年世界全体排出量380億トンの約30%が中国の排出)であるだけに、これを実現するための具体的政策がどうなるのか注目される。

 

非化石燃料(水力、原子力、風力、太陽光)が全エネルギー消費に占めるシェアは、第13次規画で設定されていた「2020年までに15%にまで高める」との目標(約束性指標)に対し、2019年にすでに15.3%で目標は前倒し達成された(2020年実績は16.3%)。

 

しかしネット排出ゼロという野心的な目標を実現するには、なおエネルギー消費全体の85%を化石燃料(石炭、石油、天然ガス)、中でも57%を石炭に依存しているエネルギー構造を大きく変えていく必要があり、経済発展モデル全体に影響を及ぼす話となる。

 

全エネルギー消費に占める化石燃料依存の世界平均は2018年、石油、天然ガス、石炭が各々34%、24%、27%。また米国、EUの石炭依存は低く、各々14%、13%で(2020年8月26日付緑色産業洞察)、こうした国際水準に近づけていくだけでも相当の努力が必要だ。

新型コロナの影響で、環境政策の推進に課題も

5中全会直前、科学者が次期(2021〜25年)、次次期規画期間(2026〜30年)とも、政策強化を通じてGDP単位当たりCO2排出量を20%削減すること、2025年までに排出量をピークアウトさせることは可能とする報告書を発表したが(清華大学気候変動持続可能発展研究院)、5中全会の建議は「2030年までに排出がピークを迎える行動方案を策定する」との方針だけを示した。

 

その後、米大統領選挙結果を受け、米国が温暖化防止のパリ協定に復帰することが確実になる中、2020年12月の気候変動に関する国連会議で、習氏は2030年までにGDP単位当たり排出量を05年比65%以上削減し、エネルギー消費に占める非化石燃料の割合を25%に引き上げるとの目標を表明している。

 

目標達成には、9割の自動車が非化石燃料で走行、航空機の半数が水素エネルギーで運航、重工業の9割が炭素回収・固定装置を装備する必要があるとの推計もあるが(ボストンコンサルティング)、一般的に、これらの開発が商業ベースに乗るには相当の時間がかかると見られている。

 

(注)2019年実績は石炭57.7%、天然ガス等23.3%、原油19%。 (出所)中国国家統計局「2020年国民経済社会発展統計公報」
[図表3]エネルギー消費内訳(2020年、%) (注)2019年実績は石炭57.7%、天然ガス等23.3%、原油19%。
(出所)中国国家統計局「2020年国民経済社会発展統計公報」

 

当面、新型コロナパンデミックが経済に与えている影響との関係で、どの程度積極的に環境政策を推進することができるかが課題となる。

 

米シンクタンクのRhodium Groupが2021年2月に発行したリポートによれば(リポート自体指摘している通り、不確定要素の多い推計ではあるが)、2020年、合わせると世界全体の温室効果ガス排出の50%以上を占めるEU、米、中国、インドについて、新型コロナに伴う景気刺激策のなかで気候変動関連対策が占める割合を比較すると、EU15%(2380億ドル)、米1%(400億ドル)、インド1%(9億ドル)に対し、中国0.3%(14億ドル)で、割合としては中国が最も低い結果になっている。

 

また、2020年は新型コロナパンデミックに伴うロックダウンの影響で、世界全体で24億トン、2009年世界金融危機時の5億トンを超える歴史的減少幅となり、米国、EUの減少率が各々12%、11%だったのに対し、いち早く経済回復を果たした中国の減少率は1.7%に止まったとの推計もある(2020年12月11日付「Deutsche Welle」)(※2)

 

(※2)その後、国際エネルギー機関(IEA)が2021年3月に発表した「Global Energy Review 2020」によると、世界全体のCO2排出量は2020年20億トン弱の減少、前年比5.8%減で、第2次世界大戦後最大の減少。減少の50%以上は航空機の国際運航や各国の輸送部門による。先進国が平均10%減に対し、新興国・途上国は4%減。中国は主要国の中で唯一プラスの0.8%増で、2015〜19年の平均増加率から1%ポイント低下したのみ。すでに多くの国で排出量は増加に転じており、中国は2020年12月前年同月比7%増、米国は2020年4〜5月が底でその後増加、12月はほぼ2019年12月並み。

 

中期的には、排出権取引制度(ETS)の全国実施のタイミングとクオータの設定、グリーンファイナンスの推進が焦点になる。

 

ETSは2013年6月以降、上海、北京、天津、重慶、深圳の5都市と広東、湖北の2省で試験的に実施されており、2020年に全国的に実施する予定だったが、新型コロナの影響で必要なデータの収集や会議の開催、規則整備などが大幅に遅れている。

 

上海の排出権取引の実績・経験を基に、全国統一プラットフォーム構築作業で中心的役割を担っている上海環境能源(エネルギー)交易所の董事長は地元経済誌取材に答え、2021年中には正式に全国プラットフォームが立ち上がり、当初の取引量は2億トン以上になる見込みと述べている(2021年1月11日付「証券時報」)。

 

試験地となっている省市では、2019年までに累計3.56億トン、73億元以上の排出権が取引されたが(2021年1月中国人民銀行(PBC)政策研究)、クオータが各企業の実績をベースにして配分されているのか、なんらかの絶対額なのかなど、制度の詳細は明らかでない。

 

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