失明や死亡の危機…恐ろしい「白内障の見えにくさ」
白内障は年をとれば誰でもなる病気、いわば老化現象のようなものです。しかしだからといって、そのままずっと放置していいわけではありません。
白内障は、放っておくと確実に進行していきます。ときには白内障の進行によって眼圧が高くなり、視野が欠ける「緑内障」につながる例もあります。緑内障は失明のリスクを伴う怖い病気で、わが国での中途失明原因の第1位を占めています。
また白内障でも症状が悪化すれば、視力が徐々に失われて生活の質(QOL:Quality Of Life)が大きく低下します。
これは、ものが見えにくくて不便というだけに留まりません。夕暮れに周囲の視野が見えにくい、夜間の運転でライトがまぶしくて見えないといったことがあれば、事故につながりかねません。
ほかにも青色が見えづらいと、台所のコンロの青い炎が見えずに衣類に火が燃え移ってしまう「着衣着火」を起こす恐れもあります(図表1参照)。白内障が原因となって、思わぬ事故を招いてしまうこともあるということです。
そうでなくても適切な時期を逃すと、いざ治療をするときになって治療が難しくなってしまう例もあります。「年だからしかたがない」と放置するのでなく、きちんと対策を考えていくことが重要です。
病気やケガ、薬の使用…こんなにある「白内障の原因」
また白内障は「お年寄りだけがかかる病気」とも限りません。後天性白内障の中には病気やけがなど、ほかの要因で起こってくるものもあります。
たとえば、糖尿病の人は水晶体内にソルビトールという糖が沈着し、白内障発症の頻度が高くなります。アトピー性皮膚炎がある人も、白内障を多く発症することが知られているほか、ぶどう膜炎などの炎症から白内障に進むこともあります(併発白内障/続発性白内障)。
ほかに目にボールがぶつかった、目を強く打ったなどの外傷で水晶体が傷ついたときも、白内障を引き起こします(外傷性白内障)。重症のアレルギーなどの治療に使われるステロイド剤を長期に使用したり、加齢性黄斑変性などの治療で行われる眼内注射を繰り返すと、白内障が進むといわれています(薬剤性白内障)。
こうしたケースに該当する人は、年齢にかかわらず白内障が起こる可能性があるので、注意して経過をみていく必要があるでしょう。
白内障を根本的に治せるのは「手術」だけ
高齢社会の日本では多くの人が経験する白内障ですが、現在のところ、白内障を薬で治すことはできません。
白内障の初期段階で日常生活にそれほど支障がないときには、点眼薬の処方や生活指導が行われ、経過観察となります。
点眼薬でよく使われるのは「ピレノキシン」や「グルタチオン」です。ピレノキシンは、水晶体のタンパク質の変性を抑える働きがあります。グルタチオンは水晶体に多く含まれるアミノ酸で、加齢とともに減ったアミノ酸を補うために用います。
ときおり、「目薬をずっと差しているのに、ちっとも目がよくならない」と訴える人がいますが、こうした目薬は「白内障が進むのを緩やかにする」作用を持つものです。長く点眼を続けていても、残念ながら、白内障の進行を完全に止めることはできません。
一方の生活指導では、遮光眼鏡の使用やバランスのよい食事などが指導されます。まず遮光眼鏡を勧める理由は、白内障を進める要因のひとつに、太陽光の紫外線があるからです。
地上に届く紫外線には、A波とB波があります。このうちB波は肌に日焼けなどのダメージを起こすだけでなく、水晶体のタンパク質を傷め、白内障を引き起こします。
そのため長時間屋外で過ごすときなどは、白内障の進行抑制のため、UVカットの眼鏡やサングラス(遮光眼鏡)、つばの広い帽子などを身につけ、目の紫外線カットを心がけるとよいでしょう。
余談ですが、私は海外でも白内障治療を行っていますが、モンゴルなどの高緯度地域とインドネシアなどの東南アジア諸国を比べると、紫外線の強い東南アジアのほうが、白内障が早く進む傾向があることがわかります。
また食生活や喫煙などの習慣を見直すことも、白内障の予防や進行を遅くするという点では、一定の意義があります。偏った食生活や喫煙、アルコールの飲みすぎなど、一般に体の老化を進めるといわれる生活習慣は、白内障の発症・進行を早めると考えられるからです。
しかし、こうした点眼薬や生活習慣改善では、「濁ってしまった水晶体の状態を改善する」という根本治療は望めません。白内障を根本的に治療するには、濁って硬くなった水晶体を人工の眼内レンズに置き換える「白内障手術」が、唯一の有効な方法なのです。
市川 一夫
日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士
市川 慶
総合青山病院 眼科部長