夫の死後、縁の切れていた兄弟から連絡が…
会社勤めのBさん夫婦は子どもがなく、夫婦2人で仲良く暮らしてきました。このたびBさんの夫が亡くなりましたが、遺言書は残されていませんでした。
夫の両親はすでに亡くなっていましたが、夫には2人の兄弟がいます。
財産の中心は都市部に所有する400坪の土地です。この土地に30坪の自宅を建て、残りの370坪は駐車場として賃貸していました。土地の評価額は都市部ということもあり、1坪100万円、合計約4億円です。加えて不動産以外に現金が1000万円ほどありました。
2人の兄弟は夫の生前には付き合いがほとんどなく、夫が長く入院した際も一度も見舞いに来たことはありません。お葬式には参列したものの、かたちばかりで早々と帰宅してしまいました。このように夫と兄弟の関係はほとんど切れていたこともあり、Bさんは兄弟2人に500万円ずつ現金を渡し、土地と建物は自分が相続しようと考えていました。
ところが、そのBさんの提案を聞いた兄弟2人が強硬姿勢に転じました。
脅しのような請求が続き…あまりに悲しい結末
Bさんの提案を退け、法定相続分の取り分を強く請求してきたのです。
法定相続分とは、民法で定められた各相続人の相続割合をいいます。その割合通りに相続財産を必ず分割しなければならないわけではありませんが、相続人は法定相続分を請求する権利があります。
今回のケースでは夫の両親はすでに他界しているため、相続人はBさんに加え、2人の兄弟が含まれます。この場合の兄弟2人の法定相続分は相続財産(4億円)の4分の1となるため、それぞれ5000万円となります。現金は1000万円しかないにもかかわらず、兄弟はBさんに5000万円ずつ、計1億円を請求したのです。
半ば脅しのような強い姿勢にBさんは恐怖を覚え、体調を崩してしまいました。そこで弁護士を入れ、協議を重ねることになったのです。しかしBさんの努力もむなしく、法定相続分の分配を求めた兄弟の言い分が認められてしまいました。
Bさんは自宅と駐車場を手放し、(譲渡所得税もかかりますが)売却資金のなかから約5000万円ずつを2人の兄弟に渡しました。そして約50年間、住み慣れた土地を離れ、実家のある地方へと帰ったのです。その後、実家近くの建売の一軒家で1人寂しく暮らすことになったものの、病気に罹り、1年後に他界されました。
この事例の相談を受けた税理士は、「遺言状を作成し、妻にすべての財産を相続させるとの一筆さえあれば、兄弟には遺留分もなく、このトラブルはなかった」と言います。遺言の大切さを痛感させられる事例といえるでしょう。
この事例に関しては、財産の額としては相続税対策も必要となるケースではありますが、結局、相続争いに発展したのは税以外の部分が原因でした。相続税がかかる、かからないにかかわらず、相続では何らかのもめごとが起きる、そう心しておいたほうがいいかもしれません。
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