上場企業の事業売却数は最高、迫られる資本効率改善
20年のM&A市場は好調に滑り出したものの、政府が緊急事態宣言を発出した4月以降に失速の兆しが表れた。特に国境を越える海外案件が低迷。海外案件は147件と前年の196件から50件近く減少し、全M&Aに占める比率も17%と前年の23%から6ポイント低下した。
市場の逆境を支えたのが、企業の「選択と集中」の動きだ。ストライクの集計では、20年の上場企業による子会社・事業の売却は前年比35%増の285件とこの10年で最多。M&A件数のうち33%を占め、比率は過去10年で最高となった。特に昨年9月ころからは、コロナ禍での業績悪化に伴う事業売却が目立ってきている。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員は「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)導入など、企業が資本効率の改善を迫られているなかでコロナ・ショックが発生した。これが企業の危機感を高め、事業の選択と集中を加速させた」と分析する。
2020年のM&A取引金額は「10兆円」超え
取引金額が年間10兆円の大台に乗せるのは2018年(13兆7836億円)、2016年(12兆1407億円)に続く3度目。
SBGによる英半導体設計大手アームの4.2兆円売却、セブン&アイによる米コンビニ3位スピードウェイの2.2兆円買収という巨大案件があったのが主因。日本企業が手がけるM&Aの金額ランキングとして、今回のSBGの案件は歴代2位、セブン&アイは5位にあたる。
SBG、セブン&アイの案件を含めて取引金額100億円超の件数をみると、2020年は51件で、前年より17件減った。1件当たりの取引が高額になることの多い海外案件が減ったことが響いたとみられる。
2021年のM&A市場は「金利」がキーワードに
関係者の間では、21年も日銀の金融緩和を背景とした超低金利や企業の「選択と集中」の動きを背景に、M&A市場の活況は続くとの見方が多い。ただ、リスクがないわけではない。松井証券の窪田氏は「ワクチン普及などによりコロナ禍からの景気回復が進めば、急激に金利が上昇して株式市場やM&A市場に悪影響が及ぶ可能性がある」と懸念する。
日銀の黒田東彦総裁は上場投資信託(ETF)購入について「異例のオペレーション」としており、市場関係者の間では「いずれ政策が見直される」とみる向きがある。日銀が3月に予定する政策点検にからみ、長期金利操作の変動幅を拡大する可能性も取りざたされている。
米国でも1月に就任したバイデン大統領が目指す大規模な経済対策が実施されれば、財政赤字が急拡大し、金利が上昇するとの見方が多い。世界の主だった中央銀行による超金融緩和でこれまで極めて低く抑えられてきた金利が企業買収を支えてきただけに、今年のM&A市場を占う上では、債券市場の動きが大きな注目点になりそうだ。
日高 広太郎
株式会社ストライク 執行役員 広報部長
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