新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の再発令は、人々の暮らしに多大な影響を及ぼしています。今回は、世田谷用賀法律事務所の代表者、弁護士の水谷江利氏が、コロナ禍の結婚式中止に関わる「キャンセル料」の支払い義務について解説します。

東京地裁平成14年3月25日判決(判タ1117号289頁)

この裁判例では、開催日から2ヵ月前の解約の場合において

 

開催予定日に他の客からの予約が入る可能性が高いこと、本件予約の解約により会場は本件パーティーにかかる材料費、人件費等の支出をしなくて済んだこと、一方で④本件予約の解約がなければ営業利益を獲得することができたこと、パーティーの開催日は仏滅であり結婚式二次会などが行われにくい日であること、予約の解約は自己都合であることなどを総合考慮して、一人当たりの料金4500円の3割に予定人数の平均である35名を乗じた(4500×0.3×35=4万7250円)と認めました。

 

やはり、同様に、今後ほかの客からの予約が入る可能性がどれだけあるか、という点に注目しています。

東京地裁平成17年9月9日判決(判時1948号96頁)

この判決は、挙式予定日の約1年前に申し込んで申込金10万円が支払われ、その6日後にキャンセルとなった事案です。

 

①この式場では挙式予定日の1年以上前から挙式等を予定する者は予約全体の2割にも満たない、②式場においても、予約日から1年以上先の日に挙式等が行われることによって利益が見込まれることは、確率としては相当少ない、③仮にこの時点で予約が解除されたとしても、その後1年以上の間に新たな予約が入ることも十分期待し得る時期にある、などとして、「得られたはずの利益」は「ない」として、10万円全額の返還が式場側に命じられています。

ポイントは逸失利益(次の予約がどれだけ入るか)

以上のとおり見てくると、やはり、これまでの裁判例の傾向では、キャンセルによって式場側が失う利益(損害)は、相当前のキャンセルなら、ほかのお客さんが十分に入るから式場には損害がない、という一方、直前のキャンセルとなると他のお客さんが入る余地がなくなり損害が大きくなりやすいとして、粗利率や再契約率に鑑みて、一定額逸失利益を認める傾向にありました。

 

今回の新型コロナウイルスの蔓延状況では、もともと他のお客さんが新たに得られる可能性は平時よりも低くなってしまっている状態なので、これまでの裁判例の理屈が、そのまま妥当しません。このような場合に逸失利益を認めるかどうか、正面から向き合った議論は、未だ尽くされていません。

 

 

水谷 江利

世田谷用賀法律事務所 弁護士

 

 

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本連載は、「世田谷用賀法律事務所」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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