2020年10月の中国共産党中央委員会第5回全体会議で決定された建議に基づき、この3月に開催される全国人民代表大会では、次期第14次5ヵ年規画(2021〜25年)が採択される予定となっている。国家安全維持法の実施後もなお混乱の余韻が残る香港は、中国経済社会全体の指針となる5ヵ年規画の中、どのように位置付けられるのであろうか。建議の内容から読み解いていく。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

建議全文から窺える香港政策の大転換

公報発表直後の記者会見で、建議策定の事務方中心人物の1人と目される韓文秀党中央財経委員会弁公室副主任は、香港の記者の「次期規画は香港にいかなる機会をもたらすのか」との質問に答える形で、中央政府は、①香港がその競争力の優位性を強化し、国際的イノベーション科学技術センター、および一帯一路プラットフォームとして機能すること、②高い質の香港・マカオ・広東大湾区(ビッグベイ)を建設すること、③香港が国家の大局的発展とよりうまく一体化することへの支持を強化するとした上で、香港は世界で最も自由な経済体で専門人材も豊富であり、「一国両制」を正確に貫徹して初めて本土との交流・協力が強化され、その長期的繁栄と安定が保持されると答えている。

 

建議全文を見ると、香港(およびマカオ)について1つのパラグラフが設けられ、「一国両制の正確な貫徹」「港人治港(香港人による香港の統治)」「高度自治方針」など、従来から用いられている文言が見られる。また上記、記者会見での韓文秀副主任の応答も、基本的に建議本文に沿ったものと言うことができる。それにもかかわらず、今回の建議には、以下のような点でこれまでと明確な違いが読み取れ、次期5ヵ年規画における香港の位置付けが現行規画から重大な転換をすることが予想される(2020年11月7日付米華字誌多維新聞他)。

 

①次期規画では、政治面の言及がこれまでになく増える見込み

 

現行規画は「一国両制」「港人治港」「高度自治」などの方針を示しつつも、政治的言及は少ない(言い換えれば、香港に対する政治的信任が厚く、政治面で比較的大きな裁量を香港に与えている)。しかし、今回建議はそうした方針は引き続き示しつつも、中央の香港に対する全面的統治権を打ち出し、中国全体の統治秩序、国家安全と利益を維持すること、香港が積極的に中国全体の大局的発展に融合していくことの重要性を強調している。次期規画で政治面の言及がこれまでになく増えることは間違いないだろう。

 

②重要文書・演説で触れられていた「民主推進」の文言が消失

 

上記に関連し、これまで、重要文書・演説で触れられていた「民主推進」の文言が建議からなくなった。例えば、李克強首相や温家宝元首相は全人代での政府工作(活動)報告において、香港に言及する際にはほぼ毎年、「民主推進」を掲げていた。ただすでに変化の予兆はあり、2019、20年の政府工作報告では「民主推進」への言及は消えている。

 

この背景には、まず行政長官の普通選挙を求めたいわゆる「雨傘運動」(2014年)、普通選挙実施のための香港政改法案否決(2015年、改正案に中央の関与が残っていることへの不満から否決に追い込まれた)、逃亡犯条例案に端を発した社会の混乱(2019〜20年)、国安法制定とその余波(2020年6月〜)がある。

 

こうした状況下、中国当局としては、「民主推進」を掲げて「民主」に関する議論を惹起し、香港社会が再び混乱することを避けたいということだろう。もとより、中国当局が言う「民主」は西側先進国のそれと同じ概念ではなく、それだけに、さまざまな議論を起こしやすい。情勢を見て再び提示する可能性はあるが、少なくとも今後5年間を対象とする規画で触れるのは適当でないという判断だろう。

 

③香港単独の発展ではなく、中国全体の大局的発展の中への融合を目指す

 

現行規画では、香港が国際金融、物流、および貿易の中心としての機能を強固にし、さらに「一帯一路」への参画を通じて、国際都市としての香港自身のステータスを強化していくことを強調しているが、建議は、香港自身が単独で発展することよりも、むしろ香港が中国全体の大局的発展の中に融合していくこと、特に、香港・マカオ・広東大湾区建設の中で香港がその役割を果たしていくことに重心を移している。

 

④香港問題を含め、国家安全重視の色彩が強まる

 

建議では新たに「外部勢力が香港・マカオ事務に介入することを断固として(堅決)防止・阻止する」ことが明記された。中国当局には、外国政府・組織が関与して、2019〜20年の逃亡犯条例案に端を発した香港の混乱を悪化させた面が大きいとの意識が強く、国安法でもその対象として「外国勢力と結託」を明記した。次期規画は全体として、香港問題を含めて国家安全重視の色彩が強まろう。

 

⑤建議に初めて「香港同胞の国家意識と愛国精神を強化する」旨を盛り込む

 

建議は初めて「香港同胞の国家意識と愛国精神を強化する」ことを盛り込んだ。2019年来の混乱を見て、中国当局からすれば、本土復帰から相当の時間が経過しているにもかかわらず、なぜ今に至っても、独立、分離といった動きが絶えず出てくるのかのかという「反省」に基づくということになる。すでに昨年9月以降、新学期に合わせ、愛国教育や国家安全に関する多くのガイダンスが学校に発出された他、11月には、香港の複数の地元TV局が中国国歌を毎朝放送するといった具体的動きがある。

 

このように、中国当局が次期規画で政治・社会面を中心に香港への関与を強める姿勢を示すことは間違いない。極めて異例だが、林鄭月娥香港特別行政区行政長官は昨年10月に予定されていた就任後4回目となる施政報告を、中央政府の対香港優遇政策を踏まえる必要があるとして延期して、5中全会後の北京を訪問し、香港担当の韓正党常務委員兼副総理、金融や保健衛生など関係部門との協議を持った。

 

実態は報告内容の事前すり合わせが必要になったということだろう。11月下旬に行った施政報告では約半分が政治面の言及に費やされ、法秩序と政治システム安定の回復が最優先課題として中央の香港政策が繰り返される一方、経済面では香港を中国全体の発展に融合させることを強調した。同長官は大湾区との一体化を中心にいくつかの政策分野で、北京訪問中に中央の支持を得たと胸を張った。ただ、北京訪問前に同長官が最優先課題と公言していた、新型コロナ感染拡大に伴う本土とのヒトの移動制限緩和は、北京の同意が得られなかった。

 

中国当局は常に表向き同長官を全面的に支持することを表明しているが、実際、どの程度信頼を置いているか、以前から内外で疑問が出されている。香港は以上のような要因を抱えて、次期5ヵ年規画期間を迎えることになる。

 

 

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