「エスプレッソ=小さなカップで飲む、味の濃いコーヒー」と思っている人は多いでしょう。しかしエスプレッソは、通常のドリップコーヒーとは似て非なるもの。違いを知ると、もっと楽しめるようになります。今回はエスプレッソに対してよく疑問にあがる「なぜあんなにも少量で、味が濃いのか」を紐解いていきます。

エスプレッソ特有のアロマを与える「クレマ(気泡)」

コーヒーになくてエスプレッソにあるもの。それがクレマです。淹れたてのエスプレッソの表面には細かい気泡が浮いています。これがクレマ。

 

クレマとは、イタリア語でクリームのこと。クレマはエスプレッソ特有のアロマを与えてくれます。色合いは濃いヘーゼルナッツ色であり、現れるタイガースキンとも呼ばれる独特の縞模様は美味しいエスプレッソを象徴しています。どこまでも均一で細かく、砂糖を載せても沈まない、単なる空気の泡ではない弾けにくい微細な気泡が載っているのが理想のクレマです。

 

エスプレッソでは9気圧という高い水圧をコーヒーの粉とお湯に加えます。そこでコーヒーとはまったく異なる濃厚なエキスを抽出することが可能になり、コーヒーの粉に含まれている旨味や焙煎で発生した炭酸ガスがお湯に溶け出します。

 

続いて抽出される際にフィルターの底の細かい穴を通り抜け、9気圧という高圧から一気に1気圧という低い気圧で噴出された結果、濃厚な油分とたんぱく質がクレマの気泡を包む皮膜を作ります。

 

イタリアのイリーコーヒー社の研究でも、「焙煎によるメイラード反応に近い反応が界面活性を促して皮膜を作り、コーヒー豆に含まれる良質の油分が気泡の周りを風船のように覆ってクレマと呼ばれる微細泡が発生する」とされています。

 

そして高い水圧をかけたお湯が、蒸らされた粉を勢いよく通過するプロセスで得られるキャビテーション効果により、エスプレッソの表面にクレマが浮き立つのです。高い気圧により、抽出するお湯にある程度の勢いがなければ、原理的にクレマは立たないのです。

 

クレマは、焙煎されてから間もないコーヒー豆ほど立ちやすく、しかもよりきめが細かく浮き立ちます。ですから、クレマは焙煎豆の鮮度の目安にもなります。

 

しかしながら、焙煎直後のコーヒー豆からは炭酸ガスが多く放出されているので、焙煎後すぐのエスプレッソはクレマが立ちすぎます。これは生豆のエキスが生み出すクレマではなく、炭酸ガスが作った気泡。炭酸ガスの酸味が強く出るため、美味しいエスプレッソは淹れられません。

 

魚や野菜は採れたて新鮮がもっとも良いのですが、エスプレッソに用いる焙煎豆は4日以上寝かせて適度にエイジングさせてあげると、ある程度炭酸ガスが放出されて安定して美味しくなります。

 

日本の喫茶店では2000年頃まで、エスプレッソを「泡立ちコーヒー」と呼んでいました。その頃は濃いコーヒー=エスプレッソという認識が主流であり、エスプレッソという呼称は聞きなれないものでした。メニューに「エスプレッソ」と書いても、お客さんの側はそれがどんな飲み物なのか見当も付かなかった時代の苦肉の策として、何とかエスプレッソを飲んでもらおうと知恵を絞ったネーミングが「泡立ちコーヒー」でした。

 

その頃のエスプレッソは現在のような抽出法で淹れたものはほぼなく、タンピングで詰めることもせず、普通の深煎りのコーヒー豆を中挽きして、充填して抽出したものが大半でした。実際はクレマではなく、空気と炭素ガスで泡が立っていたのでしょう。いずれにせよお客さんにもわかりやすく、興味を惹く良いネーミングだったと思います。

 

エスプレッソは、業務用のエスプレッソマシンを熟練のバリスタが扱ってこそ飲めるものです。家では飲めない本物のエスプレッソを飲みに、カフェに行ってみてはいかがでしょうか。

 

齊藤 正二郎
ダブルトールカフェ 代表

 

 

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※本記事は、齊藤正二郎氏の著書『エスプレッソからはじめよう』(幻冬舎MC)より抜粋・再編集したものです。

エスプレッソからはじめよう

エスプレッソからはじめよう

齊藤 正二郎

幻冬舎メディアコンサルティング

本物のエスプレッソは工場では決して作れない! エスプレッソの起源、エスプレッソマシンの匠の技、エスプレッソの健康効果など、魅惑の飲み物エスプレッソについてエッセイでお届けします。

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