「二世帯住宅」は究極の注文住宅
二世帯住宅に住むにあたり、世帯間の距離感の調整が必要な場面はいろいろとあります。高齢な両親との同居だけではありません。たとえば息子が結婚して、自分たちだけでは土地が買えないため、実家の土地に新しく二世帯住宅を建てて、すぐに同居をしようと考えたとします。最初はそれぞれのプライバシーを保つ必要があるでしょう。
しかし、先々を考えれば、やはり距離を縮める必要も生まれてくるはずなのです。そんな場合に解決策はあるのでしょうか。
最初は玄関も分けて完全分離型二世帯住宅にしたとします。ところがそのうちに息子夫婦に子どもが生まれます。両親にとっては孫です。すると、孫を中心に自然と両世帯の距離は縮まっていくはずです。そのような状況で、いちいち玄関から外に出ないと行き来が出来ないというのはあまりに不便です。
そこで、内部に構造上、いつでも開口部を抜けるような構造箇所を作っておけば不便さは解決します。当初は壁にして塞いでおくのですが、そこには簡単にドアを付けることが出来ます。孫はそこから行き来をする。たとえばそんな調整が利く提案をすることも可能なわけです。もちろん、そんな考慮は必要ない。あくまでも完全分離型二世帯でいいという場合もあるでしょう。そこはまさに家族の事情によって全く違います。
たとえば息子夫婦との同居なのか、娘夫婦との同居なのかによっても考え方、造り方は違ってきます。一般的に言って、普段家に長くいるのは女性たちなので、この女性たちが血縁なのかそうでないのかで、気の遣い方は全く変わってくるわけです。嫁・姑の関係を悪化させない手助けを、「家」そのものが出来る場合もあるのです。
セミオーダーの場合は、二世帯住宅も最大公約数的にくくって提案されます。実現したい関係は世帯ごとに違うので、それを一つひとつ聞き出しながら、その家族にとってベストなものを提案し、造っていきたいというのが、私たちの考え方であり、注文住宅に懸ける想いであるわけです。
組織的にある規模を超えると、こうしたこだわりまでは実現出来ないのは致し方のないことです。しかしながら、「二世帯パック」などというものはあり得ないと、声を大にして公言したいところなのです。
将来に対して準備をしていないと出来ないことがあります。構造にダメージを与えるようなことをしてしまってはいけないので、事前にしっかりとそこまでシミュレーションしておかなくてはいけないことも少なくありません。ここでは二世帯住宅を例に説明してきましたが、こうしたこだわりはそれ以外の住宅でも同じです。だからこそ、せっかく注文住宅を望むのであれば、何をどう実現したいのかを真剣に考えてほしいのです。
その際の最大のテーマは家族の距離感であり、もう一つ大事なポイントは、10年後、20年後の姿も考えて対応するということです。
子どもの教育にもさまざまな考え方がある
続いて、いくつか私たちが施工した事例を紹介します。ほんの一例ですが、どのような点にこだわるとオンリーワンの「家」になるのか、その点を考える場合の参考になると思います。
まず一般論ですが、今は子ども一人に一部屋が当たり前になってきています。あるお客様の場合も、子ども一人(兄妹二人)に一部屋を与えました。ただし、4畳程度と狭いのです。寝られればいいという考えで子ども部屋を設計しました。
では、どこで普段過ごすのか、というよりも勉強するのかというと、階段を上がり切った2階のフロア。それぞれの部屋を結ぶ廊下部分です。廊下が階段の周りをぐるっと取り囲んでいます。そこはリビングではありませんが、オープンスペースなので、親が宿題を見てあげることも出来ますし、子どもたちの様子もわかります。会話も生まれます。
部屋にこもって勉強するよりも、〝ダイニングで勉強する子は賢く育つ〟等と言われます。この家庭は、家族の距離感にこだわるとともに、そうした環境を保つ工夫をしたわけです。遊ぶ時間も、家族がいる場所に皆が自然と集まってくる。それは大切な文化ではないでしょうか。そのためにはそれぞれの部屋をあまり快適にしないというのは、確かに解決策の一つとなると思います。
あるいは教育という面でいうと、このお客様は、〝自動〟すぎないことにもこだわりました。最近では、センサー付きライトやセンサー付きトイレが標準になっています。人が入ってくると電灯がつく。いなくなると自動で消える。トイレの便器も、人が近づくと蓋が上がり、使用後は自動で流してくれる。建売り住宅やモデルハウスなどでは、こうした仕組みをいち早く取り入れています。最大公約数では最先端のイメージはとても大事なのです。
しかし、これは本当にいいことでしょうか? このお客様は、子どもの教育によくないと考えました。不要な電気は消す。開けたドアは閉める。トイレを使用したらちゃんと流す。出したおもちゃは片付ける。すべてに通じることですが、確かにそれが教育だと思います。公共の場所で、あるいは他人の家などで、全自動ではないトイレを流さないということも起きるかもしれません。ですから、このお客様はセンサー付きライトや全自動トイレをあえて導入しなかったのです。
その代わり、小さな子どもでも届きやすいように、各々の部屋の電灯のスイッチを標準より低めに設置しました。通常よりは低いですが、大人にも無理なく届く高さです。そうした配慮が出来るのも注文住宅です。
これが高齢な両親との同居であればもちろん話が違います。今さら教育は必要ないのですから、便利であったり、安全であったりする方がいいわけです。
個性あふれる工夫を施せるのが注文住宅の醍醐味
階段の踊り場(ステップフロア)にある壁面を勾配天井の上まで本格的なクライミングウォールに仕立てたお客様もいました。階段の踊り場を広くとって、その下は二人の娘のおもちゃ部屋にしたのです。そして上はフリークライミングの出来る壁に。親子揃って遊べる、まるで遊園地のような空間です。
クライミングウォールは情報誌にたまたま載っていた例を見たそうで、その切り抜きをお客様が持参しました。またおもちゃ部屋は、おもちゃ置き場でもあり、遊び場でもある隠れ家のような空間です。
さらに、この一家は、家族で8台の自転車を所有しています。その整備用品やキャンプ用品などを収めた専用の自転車室も必須だったため、屋内外両方から出入りが出来る、そうした部屋を造りました。アウトドア志向の家族のライフスタイルをふんだんに取り入れた「家」になりました。
隠れ家が大好きな子どもたちの夢を別の方法で叶えた例もありました。二人の子ども部屋それぞれにロフトがあって、その間にトンネルを造ってつなげたのです。お互いのロフトを行き来することができ、またその空間は秘密基地にもなります。
あるいは、外にプライベート空間としての庭を配することが困難な立地条件で、中庭を造ったお客様がいます。中庭の4面のうち、リビングとキッチンに接した2面をフルオープンに出来る構造です。中庭を挟んで回廊になっているので、動線もスムーズ。ここは第二のリビングとして、一家団欒の大切な場所になりました。このようにコンセプトや大事にしたいポイントが明確なケースもあります。
ここまで紹介してきたように、家族の構成と、その距離感をどうしたらいいのかといった大きなテーマをまず考えるという方法もあります。二世帯住宅を建てるのであればなおさらです。また、そうした明確なコンセプトやテーマがない場合は、どのようなものがほしいか、どのような暮らし方をしたいか、現状、何か解決すべき課題はないかを家族で話し合って、箇条書きでいいので書き出すことです。
間取りにしても、趣味の部屋がほしい、家事室や収納がほしい、はたまたペット部屋を造る人や、猫が通れるようにと部屋の間に穴を開けたりする人もいます。もちろん、必ずしもそのすべてをうまく整理出来るかどうかはわかりませんが、私たちはその項目を、可能な限り取り込んでプランを提示していきます。それが私たちの仕事だからです。