
相続税をめぐる環境の変化に伴い、相続税調査の状況も刻々と変化しています。本記事では、国税OBの税理士が、税務調査官の視点から指摘を受けやすい事項について詳細かつ具体的に解説します。※本記事は『税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~』(第一法規)から抜粋・再編集したものです。
相続人の選択肢は「限定承認」「単純承認」「放棄」
相続人は相続を承認するか、放棄するかを選択できます。また、承認する場合でも、単純承認(特に手続は必要ありません)のほかに、相続人が相続で得た財産の範囲内で被相続人の債務や遺贈の義務を負担することを留保して相続の承認をする限定承認(民法922条)があります。
なお、限定承認、放棄はともに相続開始後3か月以内(「熟慮期間」)に家庭裁判所に申述しなければならず、この手続をしない場合は単純承認となります。
ここでは、相続について限定承認がされた場合を取り上げます。
負債が資産を上回り、相続人全員が限定承認した事例
【税務調査官の指摘事項】
被相続人Xは土地等を有していたことから、相続人は土地等に係る譲渡所得を含めて被相続人に係る準確定申告をしなければならない。
【解説】
相続、贈与により資産が移転しても通常、その時点で譲渡所得の課税はありませんが、限定承認による相続や法人への遺贈や贈与の場合には、資産の譲渡があったものとみなされます(所法59条1項1号)。
これを本事例にあてはめますと、限定承認がされたことにより、土地建物は、被相続人から相続人に譲渡したものとみなされますから、相続人はこれらの譲渡所得も含めて被相続人Xの準確定申告(所法120条、125条1項)を相続開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までにすることとなります。
なお、この準確定申告により確定した所得税は、被相続人Xの債務として相続税法上は債務控除の対象となります(相法13条2項1号、14条2項)。