相続税をめぐる環境の変化に伴い、相続税調査の状況も刻々と変化しています。本記事では、遺言書がある場合の留意点について、国税OBの税理士が税務調査官の視点から詳細かつ具体的に解説します。※本記事は『税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~』(第一法規)から抜粋・再編集したものです。

遺産分割の方法…遺言書がある場合

遺産の分割は、遺言がある場合は、遺言の内容に従うこととなりますが、遺言がない場合や包括遺贈の場合は、相続人、包括受遺者で遺産分割協議を行うこととなります。

 

◆遺言

 

遺言の方式でよく利用されているのが、自筆証書遺言と公正証書遺言です。

 

このうち、公証人の下で作成する公正証書遺言については、検認などの手続は必要ありませんが、遺言者自らが作成する自筆証書遺言は、発見した者や所持していた者が家庭裁判所に申し立て、指定された期日に家庭裁判所で、相続人等の立会の下、検認の手続をすることとなります。

 

平成30年度の民法改正で自筆証書遺言の要式が一部変更となり、財産目録の部分については自筆で作成する必要がなくなり、パソコンで作成したものを利用できるようになりました(平成31年1月13日施行)。また、自筆証書遺言を公的に保管する制度も令和2年7月10日から始まり、この制度を利用することで検認の手続をしなくて済みます。遺留分の改正とも相まって、「遺言」の利用は今後ますます増加するものと思われます。

 

ところで、遺言利用の最大のメリットは、相続人間で遺産分割協議を行う必要がないことで、相続税の申告では、さまざまな特例の手続をスムーズに進めることができますが、半面、特定の相続人等に偏った内容の遺言は、遺留分侵害額の請求がされることもありますので、遺言作成に当たって、そういった点に配慮した準備が必要です。

 

他方、作成から長い年月が経過している遺言は、遺言内容をそのまま受け入れていいものか疑念のあることもあります。そういった場合、受遺者は遺言を放棄して遺産分割協議を行うことも含めて、慎重な検討が必要となる場合があります。

遺言と小規模宅地等の特例の「選択」

小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例や配偶者の税額軽減の特例の適用に当たり、特例に係る遺産の取得者が遺言で特定されている場合は、遺産分割協議のことを心配する必要はありませんが、この場合でも、小規模宅地等の特例の適用に必要な「選択」が申告期限までにできないことがあります。

 

例えば、被相続人Xが、相続人Aに特定居住用宅地等に該当する甲土地を、相続人Bに貸付事業用宅地等に該当する乙土地を遺贈した場合です。

 

通常は、全体の税負担を考えて選択することとなりますが、相続人相互の思惑が異なる場合は、自己の課税価格が減少し負担額が軽くなる選択を主張することもあります。そして、申告期限までに「選択」ができない場合、特例が適用できないという深刻な問題となります(【事例46】参照)。このような場合は、全体の相続税の負担は差し置いて、それぞれの受遺者が納得できる「選択」をしなければならないこともあります。

 

このように、相続開始後、相続人間で争いが想定される場合は、遺言作成の段階で、小規模宅地等の特例が適用可能な土地は、同一の者又は相続争いをすることがないと見込まれる者に遺贈するなどの検討をする必要があります。

 

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税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~

税務調査官の視点からつかむ 相続税の実務と対策~誤りを未然に防ぐ税務判断と申告のポイント~

渡邉 定義(編著),黒坂 昭一,村上 晴彦,堀内 眞之

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