日本には、秘密にすることによって穏便に事を済ませようとする文化がありますが、相続が発生すると状況は一変します。実際富裕層の間では、「知らなかった」では済まされない、ドロドロの相続トラブルが発生しているのです。新月税理士法人の佐野明彦氏が、事例をもとに解説します。

「名義貸し」が相続トラブルをドロ沼化させる

「名義株」というのは名義を借りて他人に引き受けてもらっている株式のことで、本当の所有者と名義上の所有者が異なります。名義株が発生する原因はさまざまですが、《トラブル事例》のように起業の際に名義だけを借りたというケースはよく見られます。

 

平成2年の商法改正後は、発起人が1人でも株式会社を作れるようになりましたが、それ以前は最少でも7人の名義が必要でした。そのため親族や従業員、友人などに名義を借りることがよくあったのです。

 

名義を借りる際に出資を受けていなければ、株の実質的な持ち主はオーナー社長です。ですから、お互いが事情を知る社長と名義人が元気なうちはあまり問題が起きません。

 

《トラブル事例》は代表的なケースですが、この場合も良雄社長と姉が生きていれば、姉弟間には合意があるので「高額で買い取れ」といった請求が出てくる危険性はほとんどありません。そういう安心感があったからこそ、姉から名義を借りたはずです。ただ、そのまま歳月が流れて、どちらかに相続が発生した時などは事情が変わってきます。

 

《トラブル事例》では、妻と姉の折り合いが悪いため、社長が名義株のことを隠していましたが、他にも妻に隠す理由としては「前妻が株主」というケースなども考えられます。

 

婚姻関係にある間は、利害関係が一致する妻の名義を借りるのは理にかなっていますが、離婚後は名義株を引き取っておかないとトラブルの元になります。後妻に名義株の存在を明かせなければ、隠れた名義株が長く存在することになるかもしれません。

 

このように隠されている事情はさまざまですが、いずれの場合も大きなトラブルにつながるとは考えていないため、ズルズルとその状態を引きずることが多いようです。そして《トラブル事例》のように、歳月を経る中で本当の所有者が社長であることの証拠が曖昧になってしまうことは珍しくありません。この場合は、もし裁判ということになると、次のような事実関係を調べることで名義株なのかどうかを判断します。

 

●会社発足のために名義を借りたという念書があるか

●株式を持つための資金は誰が出したか

●配当は受け取っていたか

●名義を換える時には贈与税や相続税の申告をしたか

 

ただ、こういった判断基準はあるものの、当事者が亡くなるなどで当時の事情を証明する証拠が散逸してしまうことがあります。そのため、名義人が株式を持つに至った事情を証明することは難しくなります。

 

名義株だと証明できなければ、株式に基づく権利の行使は名義人のものにならざるを得ません。買い取りの交渉はもちろんですが、経営に関わるさまざまな権利を行使されたり転売されたりと、後継社長にとって大きなトラブルの火種になってしまいます。

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