タワーマンションで暮らすことで子どもが失うもの
にもかかわらず、中学受験の専門家が「タワーマンションの上層階に暮らす子どもは、成績が伸びにくい」と確信に近いものを持った理由は何なのか。
西村氏は、それはタワーマンションに暮らす子どもは外に出たがらないからだと考える。以下、彼のインタビュー記事を引用する。
《外に出るのが面倒な子は、世界が広がらない。小学生の学習には、イメージが不可欠だからだ。子供は自分が体験したことや見たものでないとイメージできない。イメージができないと頭の中に知識が入りにくいし、そもそも問題を理解できないこともある。だから、実体験の乏しい子は、成績が伸びにくい。(中略)小学校で学ぶ勉強も、中学受験の勉強も、学びの根底にあるのは「自然」と「生活」だ。小学生の学びにそこが欠けていると伸び悩む。成績の伸び悩みは、子供自身の能力よりも環境によるところが大きい。あまり表に出ない、子供をめぐる環境の実態を伝えていくのも、家庭教師の役目だと思っている。
(「タワマン上層階の子『成績は低迷』の理由」プレジデントオンライン、2018年9月7日)》
子どもが高層居住によって失うもの
「住宅総合研究財団研究論文集」(№36、2009年)に「現代の子育て・子育ちからみた超高層居住に関する研究」という論文がある。副題は「乳幼児と学童期の子どもの成育環境から考察する」とある。筆頭著者は摂南大学工学部(現・理工学部)建築学科准教授(現・教授)の大谷由紀子氏。この中に興味深い記述があるので引用する。
《首都圏の超高層マンションが急増する地区の保育所園長に子どもの発達に関する質問を行った。現段階では高層居住による影響は認識されていないが、「親の価値観に違いを感じる」「段差の経験が乏しい(フラットな住戸からエレベーター、ベビーカーを乗り継ぐ)」「バランス感覚が育ちにくい」「コンシェルジェがいるため自分でドアを開けない」などの印象が語られた。子ども全体には「高所を怖がる慎重派の子どもが圧倒的に多い」「生き物の飼育を面倒がる子が増えた」「住んでいるマンションで経済格差が分かる、子どもの間でもそのような会話がある 」(傍点筆者)などの所見が示された。また、「子どもが土に触り、空を見上げ、木の実を採る唯一の場所としても園庭は何よりも重要」であり、マンション下の保育施設に園庭の必要が強調された。》
「高所を怖がる」との記述は前述の「高所平気症」の所見とは異なるものの、生活体験の乏しさは西村氏の観測と一致している。
自然に触れて伸び伸びと育てば普通に理解でき、身に付けられる人間としての基本的な感覚を、タワーマンションの上層階で育つことで失ってしまっているとしたら、それは至極残念なことである。
榊 淳司
住宅ジャーナリスト
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