これまで、米大統領選挙後の米ドル/円は、トレンドを伴った高いボラティリティ(価格変動)相場への豹変が繰り返されてきました。今回も、これまでの選挙後と同様の動きが見られるのでしょうか。今回は、FX開始直後から第一線で活動している、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏が、今後の「米ドル/円」の値動きについて予想していきます。

「11/16~11/23のFX投資戦略」のポイント

[ポイント]​

・「コロナ後」は米ドル安、米国株高といった具合に、米ドルと米国株は逆方向の動きが続いてきたが、通常の同方向の動きに戻ってきた可能性がある。

・米大統領選挙後の米ドル/円は、これまでトレンドを伴った高いボラティリティの相場が繰り返されてきたが、今回もそうなるかどうか、カギを握っているのは米国株ではないか。

  

今回も、トレンドを伴った高いボラティリティーの相場となるのか…(画像はイメージです/PIXTA)
今回も、トレンドを伴った高いボラティリティの相場となるのか…(画像はイメージです/PIXTA)

先週の米ドル/円は、103円台から105円台へ急反発

先週の米ドル/円は、103円台から105円台へ急反発となりました。これは、米金利が、たとえば10年債利回りが0.7%台から一気に1%の大台近くまで急騰したことが主因だったのでしょうか。

 

ただ、最近にかけての米ドル/円は、日米金利差と連動していたわけではなかったようです(図表1参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表1]米ドル/円と日米金利差(2020年8月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

この数ヵ月の米ドル/円は、金利差よりむしろ米国株との相関性が高い状況が続きました(図表2参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表2]米ドル/円とNYダウ (2020年8月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

 

 

以上のように見ると、米ドル/円が急反発した理由については、米金利上昇に伴う金利差米ドル優位拡大よりも、米国株高の影響に注目する必要があるといえます。

 

それにしても、こんなふうに米ドル/円が米国株と連動するのは、基本的にはこの数ヵ月の話です。より長いスパン、たとえば今年3月「コロナ・ショック」一段落以降では、米ドル/円と米国株は、前者が下落トレンド、後者が上昇トレンドといった「逆相関」の関係が基本でした(図表3参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表3]米ドル/円とNYダウ (2020年4月) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

要するに、米ドル/円の行方は、米金利より米国株、さらに米国株との関係は、これまでの逆相関(米ドル安・米国株高、米ドル高・米国株安)から、順相関に変わり始めている可能性があるのです。

 

米ドルと米国株は同じ方向に動きそうに見えますが、なぜ「コロナ後」は半年程度も逆方向の流れが続いてきたのでしょうか。それについて私は、「米ドル・キャリー取引」の影響ではないかと考えています。

 

FRBの金融緩和により低金利で溢れた米ドルを借り、それを売って買った外貨でその国の株を購入するといった米ドル売り運用の「米ドル・キャリー取引」は、「コロナ後」の米ドル安、株高で二重の利益をもたらしたと同時に、米ドル安と米国株高といった逆方向の相場の演出に一役買ったのではないでしょうか。

 

そんな「米ドル・キャリー取引」も半年程度も続くなかで、米ドルの「売られ過ぎ」懸念が強まるなど、曲がり角を迎えた可能性があるかもしれません。米ドル売り・株買いの「米ドル・キャリー」取引の縮小によって、米ドルと米国株は基本的に同じ方向に動きやすい通常の関係に戻ってきたということが考えられます。その上で、米ドル/円の行方は、改めて米国株がカギを握るといった構図になっているのではないでしょうか。

主要な米国株価指数は、軒並み最高値圏で推移

米国株は、主要な株価指数は軒並み最高値圏での推移となっています。ただし、少し気になるのは金利との関係です。株高により、その逆数になる株式の益回りは低下します。

 

一方、債券価格の逆数である債券利回りは、最近にかけて急騰しました。この結果、NYダウ益回り/米10年債利回りは3月「コロナ・ショック」以前の水準まで低下してきました(図表4参照)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表4]NYダウ益回り/米10年債利回り(2018年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

要するに、債券利回りに対する株式益回りの優位性が後退してきたということです。

 

もちろん、単純に比較すると米10年債利回りよりNYダウ益回りの方が高いのですが、一方で株価は上昇傾向が続いてきたことから、イールドの比較における優位性の後退が株離れのきっかけになるかもしれません。

 

ちなみに、上述のようにNYダウ益回り/米10年債利回りが大きく低下した6・9月、株価は間もなく急落に向かいました。先週にかけて、そんなNYダウ益回り/米10年債利回りは、6・9月どころか、「コロナ・ショック」以前まで低下したため、それが株式投資見直しにつながる可能性は気になるところでしょう。

今回の選挙後相場も「アノマリー通り」なのか…

米ドル/円は米大統領選挙年に、選挙後一方向への大相場になるパターンが繰り返されてきました。これは、論理的に説明するのは難しいものの、繰り返されてきた値動き、「アノマリー」として知られてきました。

 

前回の米大統領選挙年は、選挙後米ドル一段高の「トランプ・ラリー」となりました。そして前々回は「アベノミクス円安」の始まり、またその前、2018年は「リーマン・ショツク」の米ドル一段安となっています。

 

こんなふうに米大統領選挙年の米ドル/円は、選挙後にトレンドを伴った高いボラティリティ相場に「豹変」するパターンを繰り返してきました。では、今年の場合はどうでしょうか?

 

通常、米大統領選挙後の大相場は「アノマリー」といえるものでしょうが、大相場のきっかけになる「テーマ」がありました。「テーマ」なしの相場にも限界がありそうです。

 

今回も「アノマリー」通りに、米大統領選挙後にトレンドを伴った高いボラティリティの相場が起こるかどうか、そのカギとなるのは「テーマ」の有無であり、そのテーマ候補は、株価、とくに米国株の動向だといえます。

 

 

 

 

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

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