「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

教祖のカミナリを「転機」にする経営者

町の発明家社長の質問?お願い?

 

先日も新事業の相談があるとのことで連絡が入り、詳細を伺いに行ってきたのだが、相談の趣旨は「どのように売ったらいいか?」「どこに売ったらいいか?」で、既に億単位の開発費は投入済みであった。

 

「そんなバカな!」と思われるかもしれないが同様の問い合わせは、年に何件も入ってくる。「こんなのを造ってみたが、卸先を紹介してほしい」「この技術は画期的で、世界がひっくり返るぞ!」等々、社長は大真面目に開発しているのだが、お客様や用途が見えない珍製品の山である。まるで町の発明家のような社長もいらっしゃる。

 

先ほどのセンミツではないが大化けする製品がないとは限らないが、大企業の基礎開発なら許されても中小企業には金食い虫の仕事は向かない。用途開発、応用開発、ヨコ展開などお客様のお困りごと、要望をしっかり捉え商品開発するのであるが、一倉先生と社長の会話の中で「お客様の姿が感じられない、見えない」とやはり巨大なカミナリが落ちるのである。

 

曰く「穴熊社長のバカッタレ!」「そんなことは、一倉に聞かないでお客様のところに自分で行って直接聞け!」「営業マンの報告で現場の本当のことがわかるか!」と凄い剣幕である。本来、社長がやらなければならない一番大事な仕事をやらないで、社員任せ他人任せにしている言動こそが「カミナリスイッチ」の起爆ボタンなのである。

 

しかし、一倉先生は実は社長に怒っているのではない。

 

アメリカで経営学と称される「内部管理学」や「人間関係論」、「大手企業の組織論」を、経営現場を知らない学者が最新の経営学として紹介している現状に対して怒っているのである。一生懸命勉強し、正しいと信じている中小企業の社長に、「目を覚ませ!」とばかりにカミナリを落とすのである。

 

小さく実験して、一気に勝負に出る

 

それが証拠に多くの社長は「なにクソっ!」とばかりにお客様を回り始め、小さなことから仕事のやり方、お客様サービスを改良し、新商品のテストを行い、高評価をいただいたことを、全社、全お客様に広げ業績を伸ばし始めるのである。

 

当然ながら、社長は途中報告や結果報告を先生に伝えて、次の一手を相談するのだが、先生は満面の笑みをうかべて「良かったね~」と、我がことのように喜んでいる。あの剣幕で怒鳴ったことなど忘れているに違いない。まあ、あれだけ怒っていると、どこで誰に怒鳴ったかも覚えていないだろうから。

 

ただ怒鳴られた社長は「あれだけ真剣に自分のために怒ってくれた!」「あれが自分の転機だった」と皆さん述懐するのである。

 

業績が伸びるのは、誰より社長が一番喜んでいる。だから穴熊社長を卒業し、お客様訪問を繰り返し、新商品を探し、新事業を求めテストを繰り返し、事業領域を拡大していくことで目を見張る成長を実現させられるのである。

 

作間 信司
日本経営合理化協会 専務理事

 

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一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

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