「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

中小企業の社長が損切できない3つの理由

「社長の我の申し子」という新商品

 

昔からセンミツという言い方があるが、さすがに新商品の確率が1000分の3では経営は維持できない。実際の統計などはないだろうが、10%の生存率なら合格。20%も新商品がヒットするのは驚異的な数値だと言われる。新事業が収益の柱に育つ確率はもっと低いものである。巨費を投じて開発体制を持ち、市場調査を繰り返している大企業でさえ連戦連勝はあり得ない。

 

作間信司著『一倉定の社長学』(プレジデント社)
作間信司著『一倉定の社長学』(プレジデント社)

逆に言えば、10品の商品を市場投入しても8~9品は生き残らないし、1つの新商品、新事業を成功させるために、傷口が大きくなる前に損切りしなくてはならないのである。

 

しかし中小企業では、頭ではわかっていてもこれがなかなかできない。理由は、大きく3つあると思っている。1つには、累損額や単月黒字になるまでの期間の基準が全社の共通ルールとして決まっていないこと。こういう指摘をすると、必ずと言っていいほど、「最初からそんな弱気でどうする!」「松下翁も成功するまでやり続ければ、失敗はないんだ!と言っているではないか」との反論が聞こえてきそうである。

 

次に、サンクコスト(埋没原価)という考え方の持ち方である。「もう既に5000万円突っこんだんだから、後には引けない」「あと1000万円宣伝に資金を投入すれば売れ始める!」「あと1年やらせてほしい」等々、気持ちはよくわかるがずるずると時間と資金を使い、気がつけば赤字がもっと大きくなっているのである。

 

さらに悪いことに、その商品や新事業が社長の肝煎りでスタートし、社長の息子さんがリーダー・発案者となってプロジェクトが始動している場合である。投入予算のタガが外れてしまうことが、かなりの頻度で起きてしまう。

 

一倉先生の言うところの「社長の我の申し子商品」であり、日頃は冷静な社長でも、面子とプライドが掛かっているだけに、どんなにお金と人と時間を使ってでも成功させようと努力するのである。社員を含め傍目から見れば「即撤退」が正しくても、社長からすれば巨費を投じているだけに「せめて元を取らねば!」という経営者目線もあって決断を先送りにしてしまう。

 

社長を止められるのは社長自身か、社長が尊敬する人からの苦言だけである。こういう状況での一倉先生のカミナリは尋常ではない! 社長自身が慢心し、お客様不在の天動説経営に陥っていることと、会社の命脈である資金に黄信号が点灯し始めるからで、一切の言い訳を許さないで「即答」を求めるのである。

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一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

「社長の教祖」と異名を持つ伝説の経営コンサルタントは経営者をよく叱った。しかし、叱られるたびにに多くの経営者は目を輝かせたという。ユニ・チャーム、ドトールコーヒー、サンマルクカフェなどの創業者たちは教祖の一喝か…

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