第三者事業承継後は「いい時間」を過ごせている
前回に引き続き、千葉県松戸市・森動物病院、森俊士前院長へのインタビューです。
Q5 欧米では、承継後はセミリタイアで元院長が手伝って働いているのが通例です。日本は師弟関係のようなものがあって、一緒に働くケースは珍しい。森先生の場合は珍しいケースです。リタイア後の生活についてどんな感想をお持ちですか。
A5 私は盲導犬を診察することが多く、仕事の延長線上のこととして、「盲導犬を普及させる会」の会長を務めております。学校などをまわっての啓発活動ですが、役所や学校との打ち合わせからチャリティーコンサートも開催していますから、やることがいっぱいあって大変です。
もう1つは、趣味でブラジル音楽のサンバチームに所属しています。松戸サンバ・カーニバルの事務局長も務めさせていただいていますので、この盲導犬とサンバでいろんな方とお会いできるのは楽しみですね。
この第三者事業承継で、すごくいい時間をつくってもらえたことがこの2年間での実感ですね。
Q6 これから承継される方のために、経験者だから言える承継の時のアドバイスがありましたら、お聞かせください。
A6 若い人はお金がありませんから、営業権の購入資金を銀行から借りても全額準備できない場合もあります。その場合は、残り金額を個人の金銭消費貸借契約を行い、分割で返済してもらうという方法があります。
1つには、私の承継では自分が持っていた器材を全部譲り渡してしまいましたが、これには後悔しましたね。承継後に、「あの器材があれば」と思うことが結構ありました。
承継リタイアを考えている院長先生に申し上げたいのは、自分がセミリタイアしても、私のように分院で別途診療を続けていくのであれば、「良い道具は譲らずに手元に残しておくこと」ですね。承継する若い院長はこれから業績が上がってくれば、いくらでも買うことができます。また、購買意欲がやる気を引き出すことにもなりますし、最初から全部そろっているよりは、買いそろえていくのも楽しみになりますから。
一旦リタイアしてしまうと、新しい器材を買うことはまずできませんから、自分が使ってきた良い道具は手元に残しておくべきですね。
そしてもう1つのアドバイスは、「少しでも小遣いの入るリタイアの在り方を考える」ことですね。少しでも収入があると、「じゃあ、夕方5時に有楽町のガード下で」と言って仲間同士でお酒の一杯も楽しめますから。これはリタイア後の生活を楽しくするためには大事なポイントではないかと思いますね。
懸命にがんばったからこそ、これからの人生を楽しく
Q7 リタイアを考えておられる院長先生に向けてのメッセージをお願いします。
A7 ズルズルと続けるよりは、人生の切り替えの時期はあった方がいいと思いますね。
いま、リタイア世代だけではなく、現役世代でも田舎暮らしを考える人が増えているのは、給与は減っても、余裕ができ生活の質は上がるからでしょう。田舎暮らしができるかどうかは、その地方に自分がどこまで順応できるかどうか。そのためには、自分の社会性や社交性を磨いて行くことが大事だと思います。
そして、自分にできることを1つもつことです。私の場合は、サンバですが、楽器が弾けるとか、釣りができるとか。できることが1つでもあると、そこから人のつながりがでてきます。
ブラジル・リオのカーニバルに行ったときも、ホテルの前で踊っている人がいたので話しかけると、結局、一緒に歌って踊り、ビールを酌み交わすことになってしまいました。初対面でも何年来の付き合いのようになってしまうのは面白いですね。
趣味はなんでもいいから、現役時代から持った方がいいと思いますね。
リタイアは先を見越して自分がどれだけ行動したかで大きく変わります。私が言えることは、自分が楽しめるものをまずみつけて、それが他者のために役立つことがわかってくれば、それが生き甲斐になりますよ。
まずは「こんなことができますよ」の「こんなこと」を見つけることです。懸命に動物の診療を続けられてきた先生方だからこそ、これからの人生は楽しむ方がいいですよと申し上げたいですね。