今回も早期リタイアした医師へのインタビューを通じ、事業承継のメリットと、その後の人生設計について見ていきます。※本連載は、動物病院事業承継コンサルタントの西川芳彦氏の著書『なぜ8割の動物病院が廃業になるのか』(河出書房)の中から一部を抜粋し、動物病院の第三者事業承継のメリットをご紹介します。

「自己都合でやめたら社会的に許されない」という思い

前回に引き続き、神奈川県藤沢市・コスゲ動物病院小菅理隆前院長へのインタビューです。

 

Q4 小菅先生が完全リタイアをするうえで、この事業承継はどんな役割を果たしたとお考えでしょうか。

 

サラリーマンでも会社をやめた時に味わえる解放感というものがあると聞きますが、現役世代から完全リタイアできないのは、経済的理由も大きいからでしょう。

 

私はリタイア後のことを考えて蓄えは少しずつしていましたし、幸いなことにこの事業承継で西川さんがいい譲渡条件を出してくださいましたので、リタイア後の生活にはゆとりができました。

 

廃業するとゼロになってしまいますし、飼い主さんの引き継ぎ手続きや機材の処分などで逆に費用がかかる場合もあることを考えれば、この事業承継のおかげでまるで違うリタイア生活を送れていることになるのでしょうね。

 

私の「次」にやりたいこととしては、千葉に土地を買っています。そこに“終の住処”となる家を建てて、その周りでガーデニングをして暮らしたいと考えています。今はコンクリートだらけの街中に住んでいますが、これからは自然の豊かなところで楽しいことをして1日を過ごせればいいかなと思っています。

 

Q5 事業承継で承継する相手にどんな条件を求めたのでしょうか。

 

「人柄」でしょうか。特別に条件は付けなかったですね。今まで勤務医としてよくやってくれた方がいたので、「私がお金を出してでもこの人に継がせてもよかった」という思いもありましたので、第三者が私の事業を買ってくれて継いでくれる人がいるなら喜んでということでしたね。

 

相手に何かを要求するよりも、「とにかくこの病院を自分の代だけで終わらせてはならない」という思いが強かったです。

 

子供が継がないことがはっきりした時点からこの思いは持ち続けてきました。それは自分の都合だけで勝手にやめてしまうのは社会的に許されないことだろうと思っていたからです。西川さんとご縁したことで第三者に承継できることがわかり、このコスゲ動物病院を継ぎたいと言う先生をご紹介いただいた時は、本当に有難いと思いました。

 

これで廃業することも防げましたし、私のリタイア後の生活を考えるゆとりも作ってくれました。

 

Q6 これからの動物医療について小菅先生はどのようにお考えですか。

 

最近特に感じるのは、飼い主さんとの動物医療についての有りようについての乖離です。私は、動物と人間とはきちんと分けて医療の在り方を考えるべきだと思ってきましたが、現状として動物医療の高度化は目覚ましいものがあります。

 

「際限ない医療をそのまま動物にしていいのだろうか」。人間の医療もその進歩によって寿命が20年間伸びましたが、これによってかつての人類が経験したことのない問題も起きています。その1つに「老後問題」がありますが、医療技術によってただ延命させられていることに疑問を感じる人も増えてきています。

 

医療技術の進歩はいいことだと思いますが、人の医療が目指す道とは別の動物医療が目指す道をみつけなければならないと思います。

50代になったら「70代の自分」について考えてみる

Q7 これから承継を考えていただきたい、現役院長先生にリタイア経験者だからこそ言えるメッセージをお願いします。

 

できるならば引退しないで生涯現役がいいと考えるのは、獣医師だけではなく、お医者さんも弁護士先生も、会社社長も同じでしょう。

 

年齢とともに体力、判断力、行動力などが着実に落ちて来ますが、それをわかっていて続けるならまだいいが、わからずに続けているといつかは身体を壊してしまう。ハードにやっているから、自分も病院通いという先生も多い。私は早く辞めて申し訳ないと思いますが、本当に命を削って仕事をしているなと感じることさえあります。

 

1年365日24時間、仕事だけという精神は尊敬するが、そういう方に限って仕事をやめてしまえば後に何もすることがなくなることが苦痛になるだろうと思います。燃え尽き症候群になる人もなかにはいるでしょう。これは非常に残念なことです。

 

私は、現役の時からソフトランディングする方法を考えておくべきだと思って、リタイアの準備をしてきました。

 

そのソフトランディングの方法を少しお話ししますと、60歳くらいになった段階で一度人生を立ち止まって、「後の10年+αをどう生きるのか」を考えてみました。

 

本来はもっと早く、50代からの方がいいのだと思いますが、大抵の獣医師先生が現場を離れて行く年齢である70歳になるまでの期間をどう過ごすのかを想像してみることです。50歳なら20年間あります。そうすることで、自分の今の立ち位置がはっきりと見えてきます。

 

もしこの間に自分が考えているような医療ができなくなると不安を感じたなら、それはリタイアのシグナルかもしれません。このシグナルを契機に現役続行を決めるのも1つの生き方ですが、リタイアを決めるなら早く決断して動いた方がいい。それは、決断が早ければ早いほど、この事業承継で引き継いでくれる若い先生と出会える確率が高くなるからです。

 

早く決断して行動した方がリタイアの選択肢が拡がることは私の経験からも確かなことです。私のように完全リタイアするもよし。少しは病院に残るもよし。または何かを新たに始めるもよし。

 

自分の未来にいくつかの選択肢を持ちたいと思うのなら、この事業承継は大いに役立ってくれると思います。

なぜ8割の動物病院が 廃業になるのか

なぜ8割の動物病院が 廃業になるのか

西川 芳彦

河出書房

ペットを飼っている人ならしばしばお世話になる動物病院。しかし、この動物病院の8割が、院長の引退と共に廃業していることをご存知だろうか。 今の日本の獣医業界は、大多数の獣医師が引退して廃業し、大多数の獣医師が新…

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