安値しかつかない物件の裏事情とは?
特殊な事例かもしれませんが、埼玉県草加市内ではこういう例に遭遇しました。
住宅地に位置する広さ約85坪の土地です。普通に考えれば総額3000万円の価値はあるはずです。その土地売買が成立した価格は何と、総額約800万円。本来の価値の3割にも満たない水準です。この土地は、ある事情から金融機関の融資を受けられないことが災いして、これほどまでに成約価格が抑え込まれてしまったのです。
ここで問題になったのは、道路です。正確にいえば、道路に見える第三者の所有地です。この土地が接している、あたかも前面道路に見えている箇所の一部が、実は第三者の所有地ということが判明したのです。
この土地と市道である本当の道路用地との間に、その第三者の所有地が細長く挟まれている形です。なぜそういうことになってしまったのか、事情は詳しくは分かりません。
この土地と第三者の土地が不動産登記上の単位である筆(ひつ)は分かれていたものの、もともとは一体の土地だったことが考えられます。この土地を売買した時に何かの事情で道路に面した筆の異なる土地だけを残してしまったのでしょうか。
道路用地との間に第三者の所有地を挟んでいるとなると、この土地はそもそも普通には利用できない「死に地」ではないのかという疑問が浮かぶかもしれません。しかし結論からいえば、決してそうではありません。
法令には違反していないのだが…
この土地を敷地としてそこに建物を建設する計画に対する建築確認を行政などに求めれば、それを受けることはできるはずです。建築確認時には確かに敷地と前面道路の関係が法令などに違反していないかという点を確認しますが、このケースの場合、その点には問題がないからです。
前面道路には確かに第三者の所有地が含まれていますが、それらが全体として法令で定める「道路」を構成していると見なされれば、何のおとがめもありません。ただ、たとえ建築確認を受けて建物を建てたところで、それを誰に売却するのかという段階で問題が顕在化します。
立地条件や土地の広さからすれば、戸建て住宅を建設することが素直に考えられます。そうなると、購入検討者は住宅ローンを組んでそれを買おうとする層です。ローンを組めるということが、購入に当たっての必須条件です。
仮に最初の買い手はローンを組まずに購入できるとしても、それを何かの事情で売却しようとしたときに次の買い手が見つかるのかという視点で考えると、どうでしょう。たとえローンを組まずに購入できるとしても、そこを自らが売却処分しにくいとなれば、購入を逡巡したり断念したりすることは十分に考えられます。
将来にわたって買い手が限定され続けるというのは、金融機関の融資を受けられない不動産の最大のネックです。不動産を本来それが持っているはずの価値で売却する――。これが、不動産を高値で売却しようとするときの鉄則です。
一般の買い手が購入を検討できるように金融機関からの融資を受けられる環境を整えておくことが、何よりまず欠かせません。