*本記事は、髙田一穀氏の著作『改訂版 クリニック開業読本』から一部を抜粋、再編集したものです。

無用な波風を立てる前に「学閥」への留意を

開業医の世界の暗黙のルールとして、出身大学の確認、言い換えれば学閥に留意することも重要です。

 

そもそも長年、大学病院やその関連病院で勤務医としてキャリアを積んできたドクターは、独立開業を決める際にはまず、その近隣に開業に適した物件がないかを確認することからスタートします。

 

「xx病院の先生が独立して近隣で開業する」となれば、出身病院のブランドに対する信頼感と担当医であったドクター本人に対する親近感から、多くの地域患者が来院してくれるだろうことは言うまでもありません。また、開業後も継続して、出身病院から積極的に患者を紹介してもらえるなど、他の場所と比較するとそのアドバンテージは計り知れません。

 

反対に、自分の学歴ともキャリア(医局)とも全く関わり合いのない大学病院や関連病院の近隣で開業する場合には、たとえ開業する時点において、近隣の大学病院出身のドクターが開業しているクリニックがなかったとしても、後日、繋がりの深い出身ドクターが開業するであろうことを想定すると、その場所で開業すること自体がリスクを負っていることになります。

 

例えば、自分が開業した1年後に、近隣の大学病院出身のドクターが同一科目のクリニックをすぐそばでオープンしたらどうなるのでしょうか。

 

このケースでは、相手は当然のことながら、病診連携を活かして、出身病院から患者を次々と紹介してもらえるだけでなく、週に1回、出身病院で外来を担当することで、常に太いパイプを維持していけるので、当初は先行者として自院の患者数が相手を上回っていたとしても、早晩、追い抜かれてしまう可能性も否めません。

 

さらに、自院の患者が入院する際にも段取り(ベッドの確保、オペの日取りや執刀医等)の優劣が明らかに違ってくるので、門前クリニックの場合、その出自が病診連携に与える影響は小さくありません。

 

このようなリスクを鑑みると、自らが属していない大学病院や関連病院の近隣を、あえて選択して開業場所とすることは、なるべくならば避けた方がよいのではないでしょうか。

出身大学の「先輩・後輩」関係にも気をつける

また、出身大学については、開業場所を検討する際に、「先輩・後輩」という関係にも留意する必要があります。

 

例えば、α歯科大を卒業したドクターが、同大から10分の場所にある商店街で歯科医院を開業することを決めたとします。しかし、その場所と目と鼻の先ではすでに大学の先輩であるXが歯科医院を開いていたとしたら厄介なことになりかねません。

 

もしかしたらα歯科大学の同窓会長から、こんな電話がかかってくるかもしれません。
「大学のそばの商店街で開業すると耳にしたのだが、君も少しは考えたらどうなんだ! 近所で先輩のXがやっているじゃないか!」

 

「少しは考えたらどうなんだ!」 (画像はイメージです/PIXTA)
「少しは考えたらどうなんだ!」
(画像はイメージです/PIXTA)

 

出身校の先輩が開業している場所のすぐ近く(一般的には500メートル以内と言われていますが、正式なルールは存在しません)では、同じ科目のクリニックを開かないというのは、開業医の世界では暗黙の了解事項となっています。

 

それを知らずにあるいは無視して開業しようとして、このように出身大学関係者から横やりが入ることは実際、よく耳にします。「先輩なんて知ったことか、俺は俺のやりたいようにやる」ということであれば仕方ありませんが、少なくとも「余計な波風はなるべく立てたくない」というのであれば、開業検討エリア近辺において、すでに同じ科目のクリニックが存在している場合、その院長の出身大学を調べ、同門ではないかを確認しておくに越したことはありません。

 

確認方法としては、クリニック名や出身大学等に関する情報を掲載している「ドクターマップ」などを参考にしたり、医薬品ディーラーやMR、調剤薬局などの地域に密着している業界関係者から情報収集をするとよいでしょう。

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本記事は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 クリニック開業読本

改訂版 クリニック開業読本

髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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