「体罰=しつけ」という時代錯誤
今の大人は、まだ体罰が普通という環境の中で育った方も多いのではないでしょうか。小学校の時、道徳か何かの授業の際、先生が「親に叩かれたことがない人はいますか?」という質問をしたことがありました。
たしかその時、手が挙がったのは、クラスで1人か2人だけでしたが、それでも驚いたのを思い出します。しかし、時代は変わりました。世界的に、体罰は禁止の方向へ向かっています。
アメリカでは、2004年の調査では85パーセントの10代の子どもが、体罰を受けたことがあると回答していました。しかし2013年の調査では、36歳以下の親の半数は、子どもを叩いたことはないと回答しています※1。ヨーロッパや南米を中心に、50以上の国で子どもへの体罰は法的に禁止され、日本でも体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法が2019年6月に成立しました。
体罰はよくないということへの反対意見として、体罰は「しつけ」であるといわれることがあります。しかし、暴力や恐怖で子どもをコントロールしても、子どもは善悪や社会のルールを学ぶことはできません。
「しつけのための体罰」でも「悪影響しかない」事実
実は、体罰の効果は薄いこともわかっています。2014年の調査では、33の家庭で母親が数日間レコーダーを身につけ、録音された会話が分析されました※2。15の家族で体罰が行われていましたが、言葉で子どもに伝えたわずか30秒後に体罰が行われていました。これは、意図的というよりは、衝動的に体罰が行われているのではないかと分析されています。そして、10分後には子どもは同じ行動を繰り返していたのです。結果として、何度も体罰を加えることが必要となり、その程度もどんどんエスカレートしていきやすくなります。
また、明らかな虐待や怒りに任せた暴力ではなく、しつけのための意図的な体罰であっても、体罰は、子どもに大きな悪影響を与えることが、医学研究からもわかってきています。
1998年から2005年にかけてアメリカで行われた、2461人の子どもを調査した研究では、子どもが3歳の時に月2回以上体罰を行っていると、オッズ比にして1.49倍、子どもが5歳になった時の攻撃性が高まることがわかりました※3。
さらに2006年のアメリカの研究では、しつけとして体罰を受けている子どもは、実際に暴力行為を行いやすいことがわかっています※4。10〜15歳の子どもとその親134組を対象に調査を行ったところ、親から体罰を受けていた子どもはそうでない子どもに比べて、人との関わりの中で暴力に訴えることを容認する傾向が高く、いじめの加害者や被害者となりやすい傾向にあったのです。