近年「体罰」に対する認識が急速に改まっています。この流れに大きなギャップを感じる世代も少なくありません。未だに「しつけとしての体罰は仕方ない」という反論もあります。しかし「体罰」が子どもの脳に深刻なダメージを与える事実をご存じでしょうか? 「子どもが何を言っても聞かない時」はどうすればよいのか、ママ・パパ自身のストレスを軽減しつつ上手に対処する方法を紹介します。※本連載は、医師、Child Health Laboratory代表の森田麻里子氏の著書『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「目撃するだけでも脳にダメージ」…暴力の悪影響

さらに、2009年にアメリカで行われた研究では、体罰によって脳の前頭葉という部分が萎縮してしまうことがわかりました※5

 

この研究では、18〜25歳の若者を1455人に聞き取り調査を行い、3年以上にわたって体罰を受けていた23人と、体罰の経験のない22人を選んで脳のMRI(核磁気共鳴画像法)で画像を撮影しています。ここでは虐待のケースや傷を残すような体罰は対象から除かれていて、しつけのための体罰だけに限って調査が行われました。

 

その結果、体罰を受けていたグループでは、前頭葉の中前頭回や前帯状皮質と呼ばれる部分の容積が、平均で14〜19パーセント程度減少していたのです。前頭葉は、脳の中でも人間の思考や行動に強く関わっている部分です。体罰は、脳を萎縮させ、その子の性格を変えてしまう可能性があるのです。

 

さらに、体罰だけでなく、精神的に不適切な関わりであっても、同様の悪影響がもたらされます。

 

2012年に同じ研究者たちが発表した論文によると、DVを子ども時代に目撃した経験のあるグループでは、後頭葉にある視覚野という部分の容積が、平均で約6パーセント減少していることがわかりました。これは、性的虐待を受けた子どもたちと似た変化です。見たくないものを見ないようにするため、脳の形態が変わってしまったと考えることができます※6。ここでご紹介した脳の容積についての2つの研究は、現在福井大学教授の友田明美先生※7が中心となって、ハーバード大学で行われたものです。

「言っても伝わらない時」の対処法、「タイムアウト」

とはいえ私自身も、言葉で伝えるだけでは限界を感じることもあります。そんなとき、どのように子どもにいいことと悪いことを教えてあげるのがいいのでしょうか。

 

アメリカ小児科学会が監修しているウェブサイトでは、子どものしつけの方法についても詳しく解説されています※8

 

そこでは、2〜5歳の幼児がかんしゃくを起こしている時など、言葉で伝えるだけで不十分な場合に、タイムアウトと呼ばれる方法を勧めています。タイムアウトのやり方は、次のとおりです。

 

1. 「(悪い行動)をやめないと、タイムアウトにしますよ」と警告する。

2. それでも悪い行動を繰り返したら、部屋の隅など静かな場所に連れて行く

3. タイマーで時間を測り、年齢×1分間、その場所にいさせる

 

タイムアウトは罰ではなくクールダウンの時間なのですが、子どもにとって罰のように感じられることを心配する声もあります。その場合には、タイムインという方法もあります。タイムインではクールダウンの時間をとるのはタイムアウトと同じなのですが、タイムアウトと違い、親がそばに寄り添って子どもを落ち着かせます。

イライラしたら、ママ・パパも「タイムアウト」が有効

いずれにしろ、ママ・パパ自身が冷静になっていることが大切なポイントです。イライラしてしまう時は、子どもの安全を確保した上で、ママ・パパ自身のタイムアウトをするのがおすすめです。部屋の安全を確保して、トイレや自分の部屋など、落ち着ける場所に行きます。気持ちをリラックスさせるため、音楽を聞く、お茶を飲む、友達やパートナーに電話する、本を読む、瞑想することなどをやってみましょう。これは、もっと小さな赤ちゃんが泣き止まない場合でも同じです。赤ちゃんならベビーベッドの中に入れるなど、安全をしっかり確保して、その場を少し離れましょう。

 

ママ・パパ自身が冷静になるためには、毎日のストレスを減らすことも大切です。あれもダメ、これもダメと言いたくなりますが、細かいルールやマナーを教えるのは後回しにして、まずは本当にダメなことだけに絞って伝えていくのも1つの手です。

 

本連載でも、育児の中でこうしたほうがいいかもしれません、という提案をたくさん書いていますが、それは絶対ではありません。どんなにいいことであっても、それが育児に関わる大人の大きなストレスになってしまうのであれば、総合的には逆効果となることもあると思うのです。どんなことがどのくらいストレスになるかは本当に人それぞれです。だからこそ、誰かのアドバイスを聞くだけではなく、正確な情報を得た上で、ママ・パパ自身が取捨選択していく必要があります。

 

子どものためにも、ママ・パパに息抜きが必要であることに、間違いはありません。イライラしちゃったな、と思ったときほど、まず自分を大切にしてください。そうしてはじめて、子どものこともより大切に育てることができるのだと思います。

 

【出典】

※1 Analytics HIa. Four in Five Americans Believe Parents Spanking Their Children is Sometimes Appropriate 2013[https://theharrispoll.com/new-york-n-y-september-26-2013-to-spank-or-not-to-spank-its-an-age-old-question-that-every-parent-must-face-some-parents-may-start-off-with-the-notion-that-i-will-never-spank-my-child-bu/]

 

※2 Holden GW, Williamson PA, Holland GW. Eavesdropping on the family: a pilot investigation of corporal punishment in the home. J Fam Psychol. 2014 Jun;28(3):401-6.

 

※3 Taylor CA, Manganello JA, Lee SJ, Rice JC. Mothers’ spanking of 3-year-old children and subsequent risk of children’s aggressive behavior. Pediatrics. 2010 May;125(5):e1057-65.

 

※4 Ohene SA, Ireland M, McNeely C, Borowsky IW. Parental expectations, physical punishment, and violence among adolescents who score positive on a psychosocial screening test in primary care. Pediatrics. 2006 Feb;117(2):441-7.

 

※5 Tomoda A, Suzuki H, Rabi K, Sheu YS, Polcari A, Teicher MH. Reduced prefrontal cortical gray matter volume in young adults exposed to harsh corporal punishment. Neuroimage. 2009 Aug;47 Suppl 2:T66-71.

 

※6 Tomoda A, Polcari A, Anderson CM, Teicher MH. Reduced visual cortex gray matter volume and thickness in young adults who witnessed domestic violence during childhood. PLoS One. 2012;7(12):e52528.

 

※7 友田明美.子どもの脳を傷つける親たち:NHK出版新書;2017.

 

※8 Pediatric Patient Education. Teaching Good Behavior: Tips on How to Discipline [https://patiented.solutions.aap.org/handout.aspx?gbosid=166265]

 

 

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森田 麻里子

医師

Child Health Laboratory 代表

 

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東大医学部卒ママ医師が伝える 科学的に正しい子育て

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森田 麻里子

光文社

東京大学医学部卒、ママとしても奮闘中の医師が、世界の最新研究をリサーチして生まれた「使える」育児書。 「妊娠中は結局何を食べればいい?」 「哺乳瓶は消毒しないといけない?」 「子どもの睡眠時間はどのくらい必要…

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